『ファンタジーに秘められた宗教』 中村 圭志 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第④回 『銀河鉄道の夜』 生者と死者の旅路(その1)
『ファンタジーに秘められた宗教』、第④回の「『銀河鉄道の夜』 生者と死者の旅路」の放送を見ました。今回の放送は、司会は宗教学者で僧侶の釈徹宗、そして、著者の中村圭志とゲストとして女優で文芸評論家の小橋めぐみの三人の対話形式となっていた。小橋は、『銀河鉄道の夜』の舞台で、ジョバンニ役を演じたとのことである。
『銀河鉄道の夜』、宮沢賢治! と言えば、あ、法華経ですね!司会が釈徹宗なのもうなずけるところです。ところが放送を見てびっくりしたのが、賢治とキリスト教の関係が語られたことです。賢治は旧制中学校時代に盛岡のパンプテスト教会で聖書のクラスに出席していたり、無教会主義の内村鑑三の弟子、斎藤宗次郎と交流を持っていたということでした。以前に『宮沢賢治 久遠の宇宙に生きる』を読んだのですが、キリスト教の“キ”の字も出てこなかった。全く知りませんでした。なんと賢治はキリスト教にも精通していたんですね。
ちなみに内村鑑三の無教会主義に関しては、最近読んでいる『キリスト教入門の系譜』のココとココを参照してね。
第④回は、3回に分けてまとめるとする。それでは読み始めよう。
宮沢賢治と『銀河鉄道の夜』
宮沢賢治は農芸化学分野の学校教師、社会活動家、詩人、児童文学作家、そして仏教の信仰者として知られている。
彼の詩集『春と修羅』、妹トシの死を詠んだ「永訣の朝」、自身の信仰的決意を刻んだ「雨ニモマケズ」などの作品は、その文学性も高く評価されている。そして、宮澤賢治の代表作とし、今回取り上げられている『銀河鉄道の夜』がある。
この作品は、賢治が一〇年をかけて推敲を重ねた大作で、日本の児童文学の代表とされ、松本礼二の『銀河鉄道999』のモチーフになり、是枝裕和監督の映画『怪物』のオマージュとして使われるなど、漫画、アニメーション、演劇などのあらゆるメディアに翻案され、世に浸透している。
この銀河の旅のイメージは賢治自身の列車体験であると言われている。東京と花巻をつなぐ東北線は、南北に走っている。真夏の夜中には、天空の銀河もまた概ね南北に横たわっている。
銀河鉄道の旅は白鳥座(北十字)のあたりから南十字座のあたりまで続きますが、現実の世界でも、夏には天頂付近に白鳥座があり、東京行の列車の進行方向である南の地平線の下に南十字座があります。(抜粋)
『銀河鉄道の夜』のあらすじ
『銀河鉄道の夜』の最終版
『銀河鉄道の夜』は10年に及び推敲が加えられ、残された原稿はかなり雑然としていた。そして死から数えて四〇年後にやっと賢治が意図した並べ方が確定する。原稿は最低でも四段階の異なるバージョンがあり、第一稿と第二稿は部分的にしか残っていないため、第三稿が「初期型」、第四稿が「最終形」と呼ばれる。
① ジョバンニの孤独
ジョバンニは小学校高学年くらいの男の子である。父親は遠方へ漁に出ていて不在であり、母親は病気のため家で寝ている。家が貧しいので活版所でアルバイトをしながら学校に通っている。
学校ではいじめの対象となっているが、カンパネルラという裕福な家の子とは一緒に遊んだ仲でこの子はいじめに加わることはなかった。
② 祭りの晩
ケンタウル祭という夏の祭りの日、カンパネルラも祭りを見に町中に出かけるが、道すがら級友にからわかれてしまう。ジョバンニは踵を返して町はずれの丘に行き、夜空の星を眺めているうちに眠りに落ちてしまう。
③ 銀河の旅の始まり
気づくとジョバンニは列車の座席に座っている。窓からは銀河の光景がみられる。向かいの席にはカンパネルラが坐っていた。ジョバンニは親友と二人になったことをうれしく思って有頂天になった。しばらくする鳥捕りという商人が乗り込んでくる。
④ ジョバンニの不思議な切符
車掌が検札にやってくると、ジョバンニはポケットの中に見知らぬ文字が書かれた切符を持っていることに気づく。その切符を見た鳥捕りは、これが天上にも行ける、どこにでも行けるすごい切符だと言った。
⑤ 三人連れとの対話
少女(かほる)、弟(タダシ)、青年(家庭教師)の三人連れが現れる。彼らは乗っていた大型客船が氷山に衝突し溺死し、気づくとこの列車に乗り込んでいのだった。かおるは「窓から見えるさそり座は、他の動物を殺さなければ生きていけない現し身から超越を願うことで星になった」と話してくれた。
⑥ 「天上」を巡る論争
列車がサウザンクロス(南十字)駅に到着しようとするとき、かほるや家庭教師の青年は、ここが自分たちの下りるべき「天上」だという。ジョバンニは「天上」が人生の終着点であるという考えを否定し、一緒に旅を続けようと言う。かほるや青年は神について語り、ジョバンニは彼らの神に疑いの目を向け、自分にとっての「たったひとりの本当の神様」について語ろうとするが、うまく話せない。
⑦ カンパネルラの消失
三人連れを含む大半は降車したのち、列車は先に進んでいく。ジョバンニはカンパネルラに「みんなの本当の幸いを探しに」「どこまでもどこまでも一緒に行こう」というが、カンパネルラは、天の川の一画を指さして、そこが「天上だよ」と言って姿を消してしまう。
⑧ 夢から目覚めて
丘の上で寝ていたジョバンニはそこで目が覚めた。町に向かい、母のために牛乳を受け取る。川に向かうと、カンパネルラが川に落ちたことを知る。
⑨ 家へ帰る
川辺でカンパネルラの父親に会うと、息子はもう助かる見込みがないとジョバンニに伝えた。そして、ジョバンニの父親が帰ってくることを手紙で知ったと告げる。ジョバンニは牛乳と父帰還の知らせを携さえて、母の待つ家に戻る。
ジョバンニの覚醒体験
『銀河鉄道の夜』の構成は
- ジョバン二の日常風景(①、②):生活苦からの疎外感
- 銀河鉄道での出来事(③~⑦):銀河鉄道の旅での覚醒体験
- 再び日常へ(⑧、⑨):ネガティブからポジティブへの変換
という構成を取っている。
著者は、この銀河鉄道の旅でジョバンニは高揚しある種の覚醒体験をしていることに注目している。
私たちがまず注目したいのは、ジョバンニのこの高揚感あるいは覚醒体験の特徴です。(抜粋)
ジョバンニは、友人への憧れと友情という個人的な感情から出発している。そして、自分の狭量さを乗り越えようとする中で、親友と自分が追及すべき理想(万人の幸福を求めること)にまで意識が高まっていくという構成となっている。つまり閉塞した思いを開かれた理想へと昇華させている。
これは「苦境から救済されたい」という願望から「他者の救いにために頑張りたい」という決意への変化となるプロセスでもある。また、自己否定から自己肯定への変化でもある。
このネガティブからポジティブへの変化は、ジョバンニが最後に家に帰るシーンで、母親のための牛乳が得られたこと、父親が漁から帰って来たことに象徴的に表現されている。
ジョバンニの覚醒体験と賢治の回心
このジョバンニの覚醒体験は、宗教信者の回心体験とよく似ている。回心とは、宗教的な世界観に目覚める体験のことで、意識が一八〇度転換することである。ジョバンニの救いを求めるものが、救う者に転ずる変化は、賢治が奉ずる法華信仰に近いと言える。
『銀河鉄道の夜』 には、賢治の回心体験が反映されているのではないか ---まずはこのことを押さえておきましょう。(抜粋)
関連図書:北川前肇(著)『宮沢賢治 久遠の宇宙に生きる』NHK出版 (NHKこころの時代)、2023年

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