『日本奇僧伝』 宮元 啓一 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
平等 〔付〕 桃水 – 隠逸の人
今日のところは、「平等」である。平等は、厠で遁世の決意し突然出奔して乞食となった僧侶である。このような行いをした平等を後の世の隠遁志向の人々は高く評価した。またここでは、〔付〕として、近世に入ってから平等と同じく遁世し乞食となった桃水が紹介されている。それでは、読み始めよう。
『発心集』と平等供奉
平等供奉は、厠で遁世の決意を突然固め、そのまま出奔して乞食となった人である。彼は当時の遁世志向の人々に深く敬愛されていた。そのことは、鴨長明の『発心集』の扱われ方を見るとわかる。『発心集』では、第一話と第二話が「玄賓」、第三話が「平等」、第四話が「千観」、第五話が「増賀」(”前半”、”後半”)の並びである。このうち玄賓、千観、増賀は、本書で取り上げた奇僧である。この中に平等は割りいって入っているのである。
平等の出奔
比叡山の僧であった平等は、ある日、厠で籠っているときに、朝日に消える露のように無常であることをさとった。そして今のように名利にほだされて生きることが空しくなり、二度と再びここに帰ってくることはないと思いさだめ、下着の白衣に足駄といういで立ちでそのままあてもなく京に向かった。
彼はどこに落ち着こうという気もなかったので、足の向くのにまかせて、歩き回った。そして、船着き場で船に乗ろうとするが、船賃もなく世の常とも思えぬ顔つきをしていたため、船頭はいったん断った。しかし、その真剣な様子もあり、結局その船の目的地の伊予の国まで乗せていった。
伊予の国で、平等は家々の門口で乞食をしながら日を送っていた。人々はそのみすぼらしい風体から立派な出家とは思わず「門乞食」と名づけて蔑んだ。
平等と浄真阿闍
一方、平等がいなくなった比叡山では、大騒ぎであった弟子たちは、あたり一帯を捜し求めたが見つからず手がかりすらない。結局どうしようもなく、弟子たちは、平等を亡きものと思い、弔いの儀式をした。
伊予の国司は、平等の弟子の浄真阿闍梨と親交があり、しばしば祈禱を頼んだりしていた。そこで国司が京より下向するとき、遠方の地なので阿闍梨と同行してもらえるとありがたいといって、阿闍梨を伴って下向した。
門乞食をしていた平等はそんなことは知らずに、伊予守の館に物乞いをするために入っていった。阿闍梨はその乞食に、物をやろうと呼び寄せた。その乞食を見ると本当に人間かと思うような姿であった。しかし、よくよく見ると、何と行方不明となっていた平等とわかった。阿闍梨は、簾の中から飛び出し、師の手を取って縁の上に上がらせた。
伊予守をはじめ、そこに居合わせた人びとは、みな驚き怪しむばかりである。阿闍梨は、事の次第を泣く泣く語ったが、平等の方は始終ことば少なく、そしていきなり無理やり暇を乞うて、足早に去っていってしまった。(抜粋)
阿闍梨も平等の後を追い捜し歩いたが何処にも見当たらない。地元の人々と共に方々捜したが結局、平等は姿をくらましてしまった。
その後、だいぶたってから、ある山人が人も通わぬ深山の奥の清水のある所に死人がいると報告に来た。阿闍梨はもしやと思い、山人が言ったところまで行くと、平等が西に向かって端坐し、合掌したまま入滅していた。
〔付〕 桃水
名利を嫌う人にとって乞食同然の生活をすることは、一度は憧れることである。そしてその伝統は、近世にまで引き継がれる。ここでは『近世畸人伝』で取り上げられている桃水を取り上げられている。
桃水は肥前の島原の禅林寺の住職であったが、あるとき突然出奔し、その行方は分からなくなってしまった。
ところが桃水に帰依していた尼が、国を離れてほうぼう捜し歩いていると、師の桃水を見つけ出した。そのとき桃水は、菰を被って、同じような格好の病人を介抱していた。尼は桃水に礼拝し、自身が和尚のために紡いだ寝具を進呈する。しかし、桃水はいらぬものだといって受け取らなかった。尼がご自身でお使いにならないのならどのようにでも処分してくださいというと、それならばと、そのまま病んでいる乞食に掛けてやった。これを見た乞食たちは、この人はただならぬ人だと、崇め尊んだので桃水はそれを嫌って立ち去ってしまった。
また、桃水の愛弟子であった二人の僧も、尋ね求めること三年にして、乞食の群れの中にいる師を見つけた。そして、師がこのようでいらっしゃるのなら、われわれも同じ姿に身を変えて従いましょうと懇願するが許されなかった。一人は諦め、師の教示を受けて他の僧の指導を仰ぎに去っていった。もう一人はどうしても諦めなかったので、桃水は、それならわしのすることころを見るがよい、と言って、死んだ乞食が横たわっている所に連れて行った。そして弟子とともにこれを埋葬すると、桃水はその死者の食い残した食べ物をまず、自分で食した後、どうだ、お前も食わぬかと弟子に促した。しかし弟子は、その悪臭と穢なさに耐えることができず吐き出してしまう。これを見て桃水はお前にはこうした世界は耐えることができないのだと言い残し立ち去ってしまった。
関連図書:
鴨長明(著)『新版 発心集』 上、下、角川書店(角川ソフィア文庫)、2014年
伴蒿蹊(著)『近世畸人伝』、岩波書店(岩波文庫)、1940年

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