『『ファンタジーに秘められた宗教』 中村 圭志 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第③回 『ムーミン』 孤独な小さき者たち(前半)
『ファンタジーに秘められた宗教』、第③回は、「『ムーミン』 孤独な小さき者たち」である。え?「ムーミン」??、ムーミンは、ボクもこれまで何度か読んでいる、どちらかと言うと愛読している本である。でも、・・・宗教という感じは全くない。楽しい童話として読んでいました。
放送は、今回は西洋の話なので、第①回と同じくクリスチャンの若松英輔に司会で進められた。そして、著者の中村圭志とゲストとして女優でエッセイストの美村里江が参加している。この美村里江の旧芸名のミムラは、ムーミンのミムラ姉さんから来ているとのことである。放送では、若松がいろいろな視点から話題を振って、なかなか面白い内容になっていた。
第③回は、”前半“と”後半“の2回に分けてまとめるとする。今日のところ”前半”では『ムーミン』シリーズの概要と特徴、それからムーミンを理解するうえで大切な概念である「スクルット」と彼らの理想郷としての「ムーミン谷」について解説されている。それでは読み始めよう。
本書での『ムーミン』の取り上げ方
『ファンタジーに秘められた宗教』の第③回は「ムーミン」である。ムーミンは、シリーズ作品であり、そして一話ごと完結していて、シリーズを通した大きなストーリーはない。
ここでは、どれか一つの巻を分析するのではなく、シリーズ全体の設定に着目する。
というのは、『ムーミン』の一番の特徴は、ストーリー展開よりも、ムーミントロールやスナフキンやミイなど個性的なキャラクターが、それぞれの個性をそのままに共存するムーミン谷という不思議な空間のうちに現れていると思うからです。(抜粋)
日本での『ムーミン』人気について
日本でのムーミンの人気は、世界的に見ても早い方である。その人気について著者は、次の二つの原因があるとしている。
- アメリカ的な個人主義には同調できない人も多いが、社会ケアを重視する北欧諸国の個人主義にある種の理想を感じる人が多いこと
- 動物や妖精、妖怪が入り混じっているムーミンワールドは、日本の民俗世界のアニミズムや多神教の感性にしっくりくること。
『ムーミン』シリーズの概要と特徴
『ムーミン』シリーズの最初の作品は『小さなトロールと大きな洪水』(一九四五)とされるが、これはあとの作品とやや異質なところがあるので、ここでは外して考える。その後の作品は、
- 一九四六年『ムーミン谷の彗星』(原題『彗星迫る』)
- 一九四八年『たのしいムーミン一家』(原題『魔法使いの帽子』)
- 一九五〇年『ムーミンパパの思い出』
- 一九五四年『ムーミン谷の夏まつり』(ここで言う夏まつりは六月の夏至祭[げしさい])
- 一九五七年『ムーミン谷の冬』(原題『魔[トロール]の冬』)
- 一九六二年『ムーミン谷の仲間たち』(原題『姿の見えない子供』)
- 一九六五年『ムーミンパパ海へいく』(原題『パパと海』)
- 一九七〇年『ムーミン谷の十一月』(原題『十一月の末』)
となる。ここで、最初の4冊は軽快な冒険物語で、比較的とりとめないエピソードが並んでいる子供向けの物語だが、後半の4冊は、はるかに大人っぽい雰囲気で、特に最後の三冊は非常に内省的で子供の読者には難しい物語となっている。
登場するキャラクター達
ここでは、ムーミンに登場するキャラクターたちが紹介されている。
ムーミン一家
ムーミン一家は男の子のムーミントロール、ムーミンママ、ムーミンパパの三人である。包容力たっぷりのムーミンママはいつもハンドバックをもち、大らかでのんきなパパはシルクハットをかぶっている。このムーミントロールは作者の分身であり、ママとパパは、作者の母、挿画家のシグネと父、彫刻家のヴィクトルがモデルであると言われている。
ムーミンハウスの同居人
ムーミンハウスはいつも同居人がいる。
スノークきょうだいは、男の子のスノークとその妹スノークのお嬢さんである。スノークは何でも偉そうに仕切るキャラクターであり、おじょうさんは前髪があり、おしゃれ好きの自惚れの強いキャラクターである。
スニフは、カンガルーのような姿をしていて、弱虫ながらも所有欲が強いキャラクターである。
スナフキン(原名スヌスムムリケン)は、とんがり帽子をかぶり気紛れで放浪癖のある自由人。
ミムラ姉さんはおっとりした娘であるが、妹のミイは、小さい体ながら辛辣な物言いをする生命力たくましい子供。
ムーミン谷及びその周辺
ヘムレン(種族の名前)は、世間の良識を代表すると思っている。
フィリフヨンカ(種族の名前)は、世間から取り残されているのを不安に感じている女性。
ホムサは、論理的であり空想力がつよすぎたりする男の子
小さな姿のフスランとビフスランは性別不明で、お互いに暗号めいた言葉で話をしている
ニョロニョロ(原名ハッティフナット)は、集団で移動する原始的生物で電気を発する。
モランは、触れたものを凍り付かせる悪魔的な存在。ムーミントロールはモランのような存在にも根気強く付き合い、わずかなりとも意思疎通が可能であることを発見する。
ムーミンの起源
ムーミントロールの起源は、「姿かたち」と「名称」に二系列がある。
姿かたち
作者が一〇代のころに、弟と哲学論議を交わした。その時、弟がトイレの壁に哲学者カントのことばを書いた。するとトーベがその言葉のすぐそばに「鼻の大きい醜悪な生き物」を描き“SNORK”と書き添えた。これが、ムーミンの姿の最初である。また、名前としてはスノークの兄弟の初出ということになる。
名称
名称の起源は、スウェーデンに住むおじから聞いたお化けの名称である。そのお化けは、夜中につまみ食いをしている人の首筋に息を吹きかけるのである。トロールは、一般にお化け、魔物を意味する言葉であり、ムーミンは、「フワーッ」とした魔物的な音と理解するしかない。
ともあれムーミントロールは、化け物の名称でもともとはかわいらしいニュアンスがあったわけではない。
「スクルット」のための物語
トーベ・ヤンソンは、この物語を自分のため、「スクルット」のために書いていると言っている。ここで「スクルット」とは、「どこにいても居心地が悪い」「外部や周縁に留まる」「当惑した小さな生き物」のことです。つまり、世間から「役立たず」と認識され、人の輪から外れて居心地の悪さを感じている孤独な人々です。そのような人々が『ムーミン』の人気をささえている。
そして、ムーミンに登場するキャラクター達もみな「スクルット」性がある。
トーベの「スクルット」性と反骨精神
そして、トーベ・ヤンソン自身もスクルット性を持っていた。彼女は芸術家一家に生まれ、そのアイデンティティは画家である。仲間たちに恵まれていたものの、常に孤独を感じていた。
スクルットへの共感の根っこには、おそらく芸術家ならではの孤独のようなものがあったかと思われます。(抜粋)
トーベの若いころ、第二次世界大戦においてフィンランドは、ナチスドイツを含む枢軸国側について、ソ連と戦っていた。そのころトーベはスウェーデン系政治風刺誌『ガルム (Garm)』に戦争前から挿絵を描いていた。この雑誌は、ソ連にもナチスにも与せず中道を保っていた雑誌である。そして、ムーミントロールはこの挿絵の中に小さく書き添えられていた作者自身のトレードマークとして現れた。
それは異質な小さき存在とう意味で、まさしく作者の言うスクルットであり、作者の分身として観察者です。スクルットだからこそ、社会について距離を置いた目で批判的に眺めているわけです。(抜粋)
そして、もう一つトーベが同性愛者であることも見逃せない。当時の欧米社会は、同性愛者は犯罪者か精神病患者として扱っていた。芸術家仲間であってもそれは少数者に違いなかった。
ムーミンに登場するトフランとビフランは、トーベと恋人の女性ビビカを象徴するキャラクターで、このペアが暗号のような言葉で話をするのは、同性愛者が置かれた苦しい状況と関係がある。
芸術家、反体制、同性愛。こうしたさまざまな条件が、トーベ・ヤンソンをスクルットたちの共感者に育て上げたのだと想像されます。(抜粋)
ムーミン谷という聖域
ムーミン谷は、スクルットたちのあつまりを理想化した空間である。その意味で中世のアジール(聖域)— 多数派の世界において何らかのトラブルを抱え、危険に曝された者たちを保護する特別な空間 — を思わせる空間である。
また、ムーミンワールドには、二十世紀後半から欧米を中心に勃興したさまざまな潮流の予兆がある。
- 先駆的な自由な家庭のあり方
- 因習や資本主義の束縛からの解放を謳う「対抗文化」(第五回参照)
- エコロジー運動や自然回帰運動
- 近代文明批判(ポストモダン)
- 近年のLGBTQ(性的少数者の総称)などの多様性の尊重
これらの、要素がムーミン谷のスクルットたちの暮らしぶりの中にうかがえる。著者は、ムーミンが子供だけでなく大人にも受け入れられるのは、このような先駆性にあると指摘している。また、主要なキャラクターたちは、多様な生き方のロールモデルともなっている。(例;ミイ新しい女性、スナフキンがヒッピーなどのバックパッカーのロールもでるである)
さらに、ムーミンワールドには、「スクルット」たちが苦手としている、ヘムレンなどの一般市民の代弁者たちも包み込んでいる。
関連図書:トーベ・ヤンソン
(著)『ムーミン全集[新版]全9巻』講談社、2020年


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