(初出:2009-04-11 )
「中国の五大小説」(下) 井波律子 著
『水滸伝』の巻 — 一百八星、数珠繋ぎの物語 六 リーダー交代劇の意味するものは — 晁蓋の死
梁山泊は、高唐州の魔法合戦や「双鞭」呼延灼を大将とする官軍との戦いなどに勝利して、その勢力も大きくなる。しかし、ここで梁山泊にとって致命的な大事件が起こる。それは、リーダーの晁蓋の死である。
晁蓋は、これまで軍勢を率いて自ら出陣する事はなかったが、曾頭市の戦いでは、何が何でも自ら出陣すると言い張り、あっけなく敵の罠にはまって「わしの仇を捕らえた者を梁山泊の主にしてくれ」と言い残し絶命しってしまう。
この事件は、物語の後半に入ってすぐにことである。晁蓋は、梁山泊が成立する過程の前半ではまぎれもなくリーダーであるが、その存在には不思議なところがある。まず、リーダーでありながら天罡星三十六人、地煞星七十二人の中に入っていない。そしてここで軍師の呉用を同行することなく強引に出陣して命を落とす。宋江は、仇の史文恭を捕らえるものが出現するまでという条件でひとまず梁山泊のリーダーとなる。
晁蓋と宋江は互いに尊重し合っていたが、その目指すものは大きく違う。晁蓋が目指したものは、「侠」の精神でありこれは「法の下の正義」とは次元を異にするものである。しかし宋江が目指すものは国家権力に忠義を果たすことであった。
このリーダーの交代により、梁山泊の方向性が大きく転換される。
宋江は暫定的にリーダーになったものの、正式なリーダーになるまでさらに物語は進行する。晁蓋亡き後、代わりとなるような大物を新しく加える計画が持ち上がり、北京の豪傑「玉麒麟」盧俊義を加えることになる。呉用の作戦などにより盧俊義が仲間に加わると宋江は盧俊義にリーダーの座を譲ろうとする、しかしこれには仲間が納得しない。その後、晁蓋の弔い合戦の時に盧俊義が晁蓋の仇の史文恭を生け捕りする。宋江はこの時もまた盧俊義に遺言通りに盧俊義にリーダーの座を譲ろうとする。この時、呉用は宋江をなだめつつ皆に目くばせをして、反対意見を述べさせる。結局、梁山泊に近い東昌府を宋江と盧俊義が別々に攻撃して先に陥落させた方がリーダーになることになり、宋江が先手を取ったために晴れて宋江が梁山泊の正式なリーダーとなる。
宋江は手続きを踏んで梁山泊の正式なリーダーとなり、盧俊義がこれに次ぐ地位を占めることになります。この時点で、梁山泊の主要メンバーは、天罡星三十六人、地煞星七十二人、つごう百八人になっていました。地底から天空に飛びちった百八人の魔王がここに勢揃いしたのです。
これから宋江は朝廷に招安されることを求め、梁山泊の路線転換をする。そして、これから次第に梁山泊軍団の爽快感はしだいに薄れていく。招安が実現すると、梁山泊軍団は官軍に編入され苦しい戦いの後に豪傑が一人ずつ退場して物語の終末へ近づいて行く。
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