パトリック・モディアノ
ジャン=ルイ・ド・ランビュール 『作家の仕事部屋』 より

Reading Journal 2nd

『作家の仕事部屋』 ジャン=ルイ・ド・ランビュール 編
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

パトリック・モディアノ – 嘘をつく術を習得すること

パトリック・モディアノ (Patrick Modiano) は、若いころから才能を発揮し、多くの文学賞に輝いた作家である。彼の作品の多くが第二次世界停戦中の《占領時代》を背景としているため《回顧趣味》の作家とみる向きもあるが、本領は集団的無意識の探求と自己同一性の探求である。

仕事の方法

僕がどうにかものを書けるのは、神経が昂っている時だけです。(抜粋)

やすやすと書ければ、早く寝て朝仕事をするような安定し形で仕事ができるかもしれないが、自分にとって仕事は非常に疲れうんざりするものである。そのためふつう午前中は寝ていて、夜(真夜中から四時半ごろまで)仕事をする。重要なのは、ひとつの小説にとりかかっている間–7ヶ月か8ヶ月–リズムを守ることである。

執筆の仕方

仕事のプランについては、滅茶苦茶と言っていい。予めプランを立てての仕事は魅力的だが、自分の場合は実行に移せず終わってしまう危険がある。

僕の場合、書く決心を固めるのに何年もかかるのではないかという恐れがあります。ですから僕は、煉瓦をひとつひとつ積上げて家を造るように、小説を一句一句築きあげていくほうをとります。(抜粋)

一句一句が決定的なものにならなければならないため、書いては消し書いては消しの連続でひどく時間がかかる。

本を書いている時は、それを導いてくれる音楽のようなものがある。問題はリズムを失わないことである。連続性を保持するために、ほとんど文章ごとに、すでに書かれている部分を読みなおさなければならない。

筋については、最初すべてがぼやけている。しかししだいに焦点が合ってきて、人物が動き出す瞬間があらわれる。

すべてが明瞭に見えてくるのはその時です。(抜粋)

パリ占領時代の背景

小説は(生まれるずっと前の)パリ占領時代を背景としているが、自分が魅了されるのは占領それ自体ではなく、一種の黄昏の世界である。その世界を一番表現できるのが、パリ占領時代である。

自分は映画世代のため映画作家のように現場を調べる。小説を書くためには、一定の場所に位置づけることが必要である。そのため現地では手帳を携え、ほとんどマニヤックなものまで全部書きとめる。

小説の自伝的要素

小説に自伝的要素があることは、その通りである。しかしそれを創造力によって完全に変容させている。物語は真実そのものであるが、極端に圧縮されている。

僕は、より現実的な感じを出すために舞台化粧する俳優みたいなやり方をしていると言えます。
・・・中略・・・
この種のトリックに成功するためには、下心というか二枚舌というか、そういうものをもっていなければならないとあなたは仰言るんでしょう。おそらくその通りです。しかし、嘘をつく術を習得せずに、どうして小説家なんかになれるでしょう?(抜粋)

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