[レビュー]『上野アンダーグラウンド』
本橋 信宏 著

Reading Journal 2nd

『上野アンダーグラウンド』 本橋 信弘 著、新潮社(新潮文庫)、2024年
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

『上野アンダーグラウンド』

スマホでニュースを読んでいたら『上野アンダーグラウンド』という本を発見した。上野というと、ボクの父の実家が上野で、高校生くらいまでは時たま、遊びに行った。子供ということもあり行動範囲は、狭いが、それでもアメ横、不忍の池、上野観音、さらにはコリアンタウンくらいまでは何となく知っている。うん、さすがにアンダーグランドは知らないけれども。そう言うこともあって、ちょっとこの本に興味が出た。

記事によるとこの本は、「書店員が選ぶノンフィクション大賞2024」にノミネートされたようだ。


『上野アンダーグランド』を読み終わった。この本は、文字通りに上野の陰の部分を扱うとともに上野をキーワードにして、広く社会の日の当たらないネガティブな部分をあぶりだしている。

各章にそれぞれの地域やさまざまなキーワードを割りふり、著者の膨大な量の知識と、その道の関係者へのインタビュー、さらには著者らによる実地調査により立体的構成している。

さまざまな話の中で、「第二章の上野“九龍城クーロンじょうビル”に潜入する」は、ちょっと日本でこんなところがあるんだと驚いた。ビル全体が中国エステなどの怪しいテナントが入っている。その道の専門家の専門家の解説と共に著者らの潜入レポートなどにより、読者を「中国エステ」という異界の中に誘い込んでいく。

さらに第三章と第四章では、男色や出会い喫茶、さらには愛人やキャパクラというようなアンダーグランドの話を、さまざまな女性・男性へのインタビュー、さらには男色系のサウナへの侵入レポートなどを混ぜ合わせその真相に迫っている。

以降、上野にかつてあったスラム街の話や宝石街の話、アメ横、パチンコやキムチ横丁さらには不忍の池のほとりでのレポートや上野にまつわる犯罪の話など話題は多岐にわたる。

侵入レポートやそれぞれのインタビューなどの話一つひとつも興味深いのだが、文学から犯罪、歴史から映画、舞台、ドラマなどの著者の知識が詰め込まれていて圧倒される思いである。

読み終わって、いま一番印象に残っている話を挙げるとすると、第四章の宝石とスラム街の後半(宝石街)のかなりの部分を占める祥子さんの話であろうか?この部分は、宝石街の話というよりも祥子さんの話で占められてしまっている。

中国エステの話、男色や出会い系喫茶の話、そういうどこか自分の現実と距離のある話ではなく、宝石屋の社員かつ社長の愛人であり「浮気は三年で時効だから」とあっさり言ってしまう祥子さんの話の方が、どこか身近に感じられ強く印象に残った。

最初に書いたように、上野に父の実家があった関係で上野にはよく行っていた。最近はめっきり行っていないが、アメ横もだいぶ変わったようだし、たまには寄ってみようかなと思った・・・・・いや、怪しい場所には行きませんけどね。


目次 

プロローグ

第一章 高低差が生んだ混沌カオス
「上野の山」を歩く/縄文時代の地形の名残/上野と『夕やけ番長』/ミステリー作家が愛した街/不忍池にたたずむブラックデビル/西郷隆盛像をめぐる謎/西郷隆盛像と怨霊史観/上野をめぐる霊的戦い/上野に隠された“もう一人の天皇”/学生ホスト連盟誕生!/上野で暮らした「こまどり姉妹」/『駅前旅館』に見る昭和三十年代の上野/上野大仏の数奇な歴史/『東京五人男』に見る終戦直後の上野/湯島天神のラブホテル街/忘れ去られた石碑/義父が食した幻のラーメン

第二章 上野“九龍城クーロンじょうビル”に潜入する
中国エステの淫靡な世界/本番風俗の“総本山”/「大小便禁止」の張り紙/問題の中国エステに潜入/「この店はどこまでできるんですか?」/デリヘルの事務所にて/九龍城ビルとマゾ男優/経営者が語る中国エステの内実/二度目のスケベチャイム

第三章 男色の街上野
真夜中の摺鉢山すりばちやま古墳にて/陰間茶屋かげまぢゃやで栄えた上野/幻の漫画家・山川純一/終戦後に開校した「オカマ学校」/「男ビデオ」の秘境/掘ってよし、掘られてよし/ゲイ映画界のレジェンド来たる/田中角栄から言われた一言/昼飲み居酒屋にて/男同士の世界はプラトニック/池袋のホステス “ちとせ”の正体/“会員制”ゲイサウナに潜入/男たちの酒池肉林

第四章 秘密を宿す女たち
個室型出会い喫茶に潜入/会社帰りのOLが部屋に/進行中の完全犯罪/熟女系出会い喫茶のカオス/愛人道まっしぐら/上野のキャバクラ事情/ハプニングバーにハマる女/アロマエステで起こる“自爆”/常磐線は寂しい匂いがする

第五章 宝石とスラム街
「葵部落」という最貧集落/「バタヤ」という職業/江戸川乱歩が描いた葵部落/東京の三大貧窟「下谷万年町」/残飯屋という飲食店/下谷万年町と唐十郎/日本最大の宝飾問屋街/御徒町に流れ着いた人妻/宝石街に集まるジャイナ教徒/愛人兼社員/「浮気は三年で時効だから」

第六章 アメ横の光と影
アメ横での苦い経験/アメ横に集まる外国人/混沌とした地下食品街/三島由紀夫の革ジャン/レバノンからの金密輸ルート/禁断の年末商い/上野熱に取り憑かれた社会学者/「ノガミの闇市」と呼ばれた時代/朝鮮人と地元ヤクザの手打ち式/“稼ぐ”ことへのプライド/eコマース時代のアメ横の存在意義

第七章 不忍池しのばずのいけの蓮の葉に溜まる者たち
上野駅と集団就職/井沢八郎の「あゝ上野駅」/路上の似顔絵師たち/上野駅に護送された帝銀事件容疑者/放浪する路上占い師/弁天島の不思議な石碑群/不忍池に引き寄せられた脱サラ写真家/エッジに生きる人々/たたずむ完熟の街娼たち

第八章 パチンコ村とキムチ横丁
都内最大のコリアンタウン/パチンコ村の水先案内人/パチンコ・アンダーグラウンド/みんな “事故待ち”/在日の地下茎/キムチ横丁の名物焼肉店/総連系と民団系/在日のパワー/親父は戸籍が無いんです

第九章 事件とドラマは上野で起きる
キャバクラの黄金郷/フィリピンパブの魔力/ジャパゆきドリーム/花形記者が集う上野警察記者クラブ/一億円拾得事件の舞台裏/上野駅はスリの本場/新聞記者時代の深代惇郎・本田靖春も上野に/小原保と“落としの八兵衛”/永山則夫と上野駅/獄中での創作活動

エピローグ

あとがき

文庫版あとがき

参考資料

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