仕事の中の行動経済学(前半)
大竹 文雄『行動経済学の使い方』より

Reading Journal 2nd

『行動経済学の使い方』大竹 文雄 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

第3章 仕事の中の行動経済学(前半)

今日から、第3章「仕事の中の行動経済学」である。第1章で行動経済学の基本的は考え方が解説され、第2章は、行動経済学の知見をもとに人びとの選択をより良い方法にかえるナッジについてであった。第3章は、身近な仕事の例を通して行動経済学的な考え方が示される

第3章は二つに分けて、最初に3つの例から、後半でピア効果をまとめる。


ここでは、

  1. バイト(球場でのジュース売り)のシフトの例
  2. タクシー運転手の例
  3. プロゴルファーの例

の3つの例が示されるが、ここでは②と③のみ、まとめるとする。

タクシー運転手の働き方

ニューヨークのタクシー運転手の働き方を分析した研究は、参照点が労働供給に影響を与えるという行動経済学的予測を実際のデータから明らかにしている。

タクシーの乗客の数はさまざまな影響(天候、曜日、イベントなど)により増減する。そのため、乗客が多くなると空車の時間が少なくなるため、実質的な時間当たりの賃金は、上昇する。そして、タクシーの運転手は毎日の労働時間をある程度自分で決めることが出来る。

伝統的経済学による予想

このような状況を「伝統的な経済学」に基づいて考えると、タクシーの運転手は「時間当たりの賃金が高い日には長く働き、低い日には早めに仕事を終える」と予想される。これは「一日以上の時間的視野」を持っている労働者ならば自然な行動である。それは、一日の賃金が高い時に長く働けば、週単位、月単位での労働時間が変わらない場合でも所得金額をふやすことが出来るからである。

実際のタクシー運転手の行動

しかし実際には、

ほとんどのケースで賃金が労働時間にマイナスの影響を与えていることを示した。つまり時間あたりの賃金が高い日には、タクシー運転手は早めに仕事を終えているのだ。特に経験日数が短い運転手の場合は、賃金が1%高まると労働時間も1%減っていた。(抜粋)

行動経済学による解釈

これを行動経済学的に解釈すると、次の可能性がある。

  1. 時間的視野が一日単位:この場合は、一時的に賃金が上がっても、視野が一日単位ならば、所得効果が発生して、代替効果が生れれば、結果が説明できる
  2. 一日当たりの目標所得が参照点になっている:参照点よりも所得が低いと損失と感じ満足度が大きなるが、高いと満足度が大きくなるので、所得が参照点に達した時点で仕事を止める

このような仮説をもとに、実際に調査すると、目標所得金額の影響は存在するが、所得目標自体が毎日大きく変動し、さらにほとんどの運転手は目標所得金額に到達する前に仕事を終えている、ことがわかった。

つまり上記の目標所得仮説で説明すること自体が難しい、という結論になった。

しかし、このタクシー運転手の行動経済学的研究はこれで終わらなかった。別の研究者が、

所得や労働時間の水準と目標との差の両方から満足度を得るという、伝統的経済学と行動経済学を折衷した考え方に基づいたモデルを推定している。(抜粋)

その結果、タクシーの運転手は、目標所得目標労働時間が、勤務時間の前半で決められ、そのどちらかが目標(参照点)に到達すると仕事を止める確率が高くなり、その参照点は非常に安定であることがわかった。

つまり、タクシー運転手の行動は参照点に依存するというプロスペクト理論の考え方と整合的だということだ。(抜粋)

ここの話は、理論が一度否定されて、逆転するんですね。結果が否定されちゃったときは、どうなるのかと思った。

つまりは、目標所得の参照点だけではうまく説明できなかったが、それに目標労働時間という参照点が加わることで、行動経済学的な理屈と整合したわけだ!

目標所得に達する前に仕事を終える運転手さんが多いということは、つまりは、目標労働時間に達した・・・・ああ、疲れたからやめよう・・・みたいな感じで、おつかれさまって言いたいですね♬(つくジー)

プロゴルファーの損失回避

タクシードライバーの意思決定のように、「参照点に依存した意思決定」や「時間的視野が短い意思決定」をした場合は、「長期的視野で参照点を無視した意思決定」に比べて、長期的利得は低くなる。

このような行動経済学的特性は、タクシー運転手の場合は比較的経験年数の浅い人に多かった。そこで、どんな分野でもトップクラスの生産性をあげている人は、伝統的経済学が示すような行動をしていて、行動経済学的特性はないのだろうか?

この答えとして、著者はプロゴルファーに見られる損失回避の研究を紹介している。この研究によるとゴルフのトッププロ選手でもパーを参照点として、損失回避行動が観測されるというものである。

ゴルフは72ホール全体の打数を最小にすればよいため、本来なら毎回のホールによって利得と損失を考える必要はない。しかし、プロゴルファーですら、ボギーを損失と考えるため、パーパットでの集中力が他のパットよりも上がり、そのためパーパットの成功率がバーディーパットの成功率よりも高いことが明らかになった。これは、各ホールのパーパットを参照点としているためであり、トッププロゴルファーでも損失回避によるバイアスから逃げられないことを示している。

また、別の研究では、バーディーパットでは、パーパットに比べて、ホールまでの距離が短いショット(ショート)を打ってしまうことが明らかになった。これは、安全策をとるとショートを打ってしまうと考えられるため、利得局面(バーディーパット)では、ギャンブルをしないが、損失局面ではギャンブルをしがちな損失回避行動と整合的である。

では、こうした損失回避傾向が強いプロゴルファーは、賞金ランキングで下位の選手に多いだろうか。この研究の推定結果によれば、損失回避傾向は賞金ランキングの上位の選手にも下位の選手にも同じように観察されている。(抜粋)

コメント

タイトルとURLをコピーしました