亡き人の実在感がこころにストンと / 空を預ける空想家のメッセージ
柳田邦男 『人生の一冊の絵本』より

Reading Journal 2nd

『人生の一冊の絵本』 柳田邦男 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

亡き人の実在感がこころにストンと

近年、日本でも「グリーフケア」あるいは「グリーフワーク」という用語が、一般的になって来ている。

  • グリーフケア」・・・・大切な人、愛する人をうしなった悲しみを癒し、生きる力を取りもどすのを支えること
  • グリーフワーク」・・・・自分自身で再生への道をあゆむこと

人は、自分あるいは愛する人の生きたあかしを残したいと思い、闘病記や追悼記を書く。そして、書くことによって心が癒され生きる力が湧いてくる。

ここでは、このグリーフワークに関する絵本を三冊紹介している。

『いつまでもいっしょだよ – 日航ジャンボ機御巣鷹山墜落事故で逝った健ちゃんへ』

一冊目は、『いつまでもいっしょだよ – 日航ジャンボ機御巣鷹山墜落事故で逝った健ちゃんへ』である。この絵本は題名の通り、一九八五年に起こった日航ジャンボ機の墜落事故で犠牲になった、当時小学三年生の健ちゃんの話である。

健ちゃんは、生まれてはじめてのひとり旅だった。高校野球のPL学園のファンだったことから、大阪に住む叔父さんに招かれて甲子園で夏の高校野球全国大会を観戦するための旅だった。(抜粋)

大切な我が子を亡くした母親の美谷島みやじま邦子さんは、事故後、混乱と涙の日々が続いた。そんな日々の中、思いがけないことが起こる。

新潟市の、健ちゃんと同じ小学三年生の見知らぬ子供たちから缶ジュースが送られてきて、観に<けんちゃん おそらで のんでね>と書いてあった。翌年の子供の日には、やはり同じ新潟の子どもたちから、<いっしょに やきゅうしよう>などと寄せ書きされたこいのぼりが届けられた。母親のこころのなかで、健ちゃんが自分で色紙を切り張りしてこいのぼりをつくった日の思い出が、重なる。(抜粋)

そして美谷島さんは、健ちゃんの思い出を絵本にまとめて、健ちゃんが生きた証にすると決心した。

『パパの柿の木』

二冊目は、『パパの柿の木』である。この絵本も日航ジャンボ機事故で四〇歳の夫・谷口正勝さんを亡くした真知子さんが作ったものである。

夫の正勝さんは、事故の五年前に、柿の苗木を買ってきて植えた。絵本は、その柿の木の成長と共に小学生だった二人の男の子の成長を重ね合わせる構成になっている。

事故後、夫が機内で記した「子供達の事をよろしくたのむ」という遺書を見ては、泣いていた真知子さん。パパの代わりになろうとがんばるお兄ちゃん。いつもパパのシャツを抱いて涙を流して寝る弟。はじめて実った柿を涙ながらにほおばる家族・・・・。やがて、子どもたちは成長し、家族を持ち、孫が五人になる。絵本の最後の言葉は --- <パパ、いつも僕たちを見守ってきてくれて、ありがとう>。(抜粋)

『ずっと つながってるよ – こぐまのミシュカのおななし』

三冊目は、『ずっと つながってるよ – こぐまのミシュカのはなし』である。この絵本は、世田谷一家四人殺人事件の被害家族の姉で隣に住んでいた入江あんさんの描いた絵本である。この絵本は、<命の尊さを伝えたいという思いはもとより、・・・・不条理な別れに遭遇した方々の悲しみこの絵本で少しでも癒すことが出来るなら>という杏さんの思いから生まれた。

主人公は、犠牲になった八歳のにいなちゃんと六歳のれいちゃんが大切にしていたテディベアのミシュカである。物語は、ミシュカのこころの癒しの歩みを優しい構成で描いている。


関連図書:
みやじまくにこ(作)『いつまでもいっしょだよ – 日航ジャンボ機御巣鷹山墜落事故で逝った健ちゃんへ』、扶桑社、1988年
谷口真知子(作)、亭島和洋(絵)『パパの柿の木』、星湖舎、2016年
入江杏(作)『ずっと つながってるよ – こぐまのミシュカのおななし』、くもん社、2006年

空を預ける空想家のメッセージ

ここでは、空に飛び立つような想像力を刺激する絵本を三冊紹介している。

『おばあさんのひこうき』

一冊目は、『おばあさんのひこうき』である。編み物上手なおばあさんが、蝶のはね模様のような肩掛けを編んだら、ふわっと浮き上がり、それを押さえようとしたら自分も宙に浮いてしまった。そこでおばあさんは編み物で飛行機を作る。満月のよるにおばあさんは編み物飛行機で大空を飛ぶ。

<こんなに きれいなところなら、わたしも みんなといっしょに くらしてみても いいような きがするねぇ>とつぶやく。(抜粋)

『リンドバーグ – 空飛ぶネズミの大冒険』

二冊目は、『リンドバーグ – 空飛ぶネズミの大冒険』である。この絵本の表紙を見ると、史上初の大西洋横断飛行を行ったリンドバーグの伝記のように思ってしまうが、そうではない。主人公は、小ねずみである。

ある港町に図書館にかよって人間の本を読み漁っている小ネズミがいた。あるひ町から仲間のねずみが一匹もいなくなっていることに気づく、港では、大型客船に乗る大勢の人たちが並んでいた。小ネズミは、直観的に仲間たちが船でアメリカに逃げようとしていると思う。このころ残酷なネズミ捕り器が発明されたのだ。

小ねずみも客船に忍び込もうと思うが、すでに猫たちに見張られていた。

<そうだ!空を飛んでいこう!>(抜粋)

そう小ねずみは考え、何度も失敗しながらやっと飛行機を作る。そして一番高い教会の尖塔から飛び立った小ねずみの飛行機は大西洋を横断し、ニューヨークに着陸する。そして、ニューヨークでは、ねずみの大群衆に迎えられた。

最後の頁は、<伝説>と銘打って、全新聞が小ネズミの大冒険を伝え、各地でネズミの航空ショーが開催されることを記して終わる。その末尾には、小さな男の子が小ネズミのポスターに胸をときめかせえて見入り、<いつか自分も空を飛びたいと思った・・・>と書き、少年の名を付記してある。
<チャールズ・リンドバーグ>と。(抜粋)

『そらいろ男爵』

三冊目は『そらいろ男爵』である。時代は、二〇世紀はじめの第一次世界大戦である。フランス軍もドイツ軍も長い長い塹壕ざんごうの中で向かい合っていた。そらいろの飛行機で楽しんでいた男爵も、フランス軍に入隊する。男爵は、爆弾がないので百科事典を落とす。すぐに百科事典はなくなって、次はトルストイの『戦争と平和』を落とした。すると、それを敵の隊長が部屋に籠って読んだため、戦闘命令が出なくなる。
次に愉快な本を降らせると敵の兵士は読みふけって戦うのを休んでしまう。そして最後に、家族からの手紙を、わざと両軍の陣地にく。すると、両軍の兵士は戦うのをやめて、歩み寄り、共に涙をながして抱き合った。


ここには、書いてないが、これは第一次世界大戦の撃墜王の「レッドバロン」をもじったのだと思う。それと、『戦争と平和』の本をを落としたってのも意味ありげですよね・・・・わからないんですけれどもね♪(つくジー)

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