聞き上手は話さない / 真剣に聞けるのは、一時間以内
東山紘久 『プロカウンセラーの聞く技術』 より

Reading Journal 2nd

『プロカウンセラーの聞く技術』 東山紘久 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

1 聞き上手は話さない

聞き上手は訓練が必要

ほとんどの人は、聞くよりも話すほうが好きである。それは、聞くよりも話すほうが心理的に楽だからである。
聞く人には相手の気持ちを理解しなければならないという負担がかかる。したがって聞き上手になるには、相手の気持ちを負担に感じず、こちらから話したくなるような訓練が必要である。これからの項では、聞き上手になるためのコツが書かれているが、いずれも訓練が必要である。

「聞き上手は話さない」

まずここでのテーマは「聞き上手は話さない」である。

聞き上手になるためには、自分の方から話さないことである。相手の話を「素直」に聞き、相づち以外はしゃべらないことである。意見を聞かれた時は、文章だと一行ぐらいの短い答えをする。もし、答えが見つからない場合は、「そうですね」と言って、考えればよい。30秒もすれば相手の方からまた話し出す。

この30秒は実際には長い。プロの聞き手は相手がしゃべりだすまで、気まずくない雰囲気を持つ技術を持っている。

まず、第一の修業は、相手の話を「素直」に聞くことです。相手に反論したいときも、話をよく聞いてあげると、相手の意見も自然とおだやかになり、反論しなくてもすむことの方が多いです。(抜粋)
ここまで読んでこられて、あなたが聞くべき状況でも、まだあなたはしゃべりますか?もしそうなら、あなた自身の心にたまっているものを、まず聞き上手の人にすっかり聞いてもらってください。そして、あなたがしゃべりたいことをしゃべりつくして、しゃべりたい気持ちを空にしてみてください。話を聞くのはそれからになります。(抜粋)

この最後の抜粋部は、この前に読んだ、東畑開人の『聞く技術 聞いてもらう技術』と通じる。東畑は、「聞く」ことが難しくなったときは、第三者に「聞いてもらう」必要があると説いていた。なるほどなるほど、そういうことは専門家の間で、共通の認識なんですね、キット。(つくジー)


関連図書:東畑開人 (著)『聞く技術 聞いてもらう技術』、筑摩書房(ちくま新書)、2022年

2 真剣に聞けるのは、一時間以内

話を聞く時間は、一時間

人の話を集中して聞くと、ずいぶんと疲れる。そのためカウンセリングでは、相談者の聞く時間は五〇分から一時間である。カウンセリングは、一週間に一回、約一時間行われるのが一般的で、相談者の問題によってはこれを一年、二年とつづける。

友だち同士の会話などの場合、長時間話を続けられるが、それは、聞き手と話し手が同じレベルにあり、話し手と聞き手が交代しているからである。聞き手になったとき疲れは、話し手になった時に解消されている。しかし、そのような場合でも毎日続けられるものではない。

家庭内で、母親や祖母や父からぐちを聞かされ続けた子どもたちに、心理的症状が出ることが知られている。このように心理的症状が出る人の多くは、家庭内の葛藤の調整役(話の聞き手)をしていて、消化しきれない、納得できない話を聞かされるため、苦しむことになる。これは、プロのカウンセラーが必要とされる理由の一つである。

プロのカウンセラーでも身内の話を聞くのは、厄介である。カウンセリングの場合は1時間と時間が決まっているが、身内の場合は無制限となるからである。時間が無制限となるといくらプロでも相当心の余裕がないと難しい。

「エンカウンター・グループ」と「聞かれること」の危険性

ここで著者は、「エンカウンター・グループ」を例にあげて、話を聞かれることの利点と危険性について注意をしている。

現代人の孤独を癒し、心の成長を促進するための「エンカウンター・グループ(出会いのグループ)」というものがアメリカを中心に世界各地で行われている。
エンカウンター・グループには、ファシリテーター(グループ・プロセスの促進者)という専門の聞き手がついている。グループが長期間になるとこのファシリテーターの人格が重要になる。

聞き手の人格が未熟だったり、短絡的だったり、病的(あまりにもカリスマ的)だったりしますと、参加者のメンバーに自殺者や病気になる人が出たり、宗教団体(カルト集団)のように抜けられなくなったりします。これは聞き手が相手の心に入りこんだからで、無防備になった話し手は被暗示性が強くなり、洗脳とかマインド・コントロールとか呼ばれる状態になりやすいのです。(抜粋)

相手中心で集中して聞かれると、話し手は癒されるが、同時に無防備な状態になる。つまり、そのような聞き手によって、話し手は心に侵入される危険性がある

著者は、この本は、「一般的な聞き上手」になることを目的に書かれているが、そのような危険性もあることに注意している。

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