『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』 河野啓 著 集英社2020年 1600円+税
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』
Webで「登山家、栗城史多」に関する記事を読んだ(ココ)。
河野啓の『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』の紹介記事である。ちょっと興味深い本だったので、買ってみた。
この本は、2020年度「開高健ノンフィクション賞」を受賞している。そして、この本の文庫化を記念して丸善ジュンク堂で「開高健ノンフィクション賞20周年記念ブックフェア」が開かれている [2023/3/5 時点]。このフェアでは、
『デス・ゾーン』に加え、いずれも「冒険」をテーマにした過去の受賞作『最後の冒険家』(石川直樹著)、『空白の五マイル』(角幡唯介著)の3作品が展開されている。(抜粋)
との事である。
この作品は、「七大陸最高峰 単独無酸素登頂」を目指した登山家、栗城史多のノンフィクションである。栗城は、六大陸の最高峰に登った後、八回もエベレスト登頂を目指すが、果たせず。八回目の登頂を断念し、下山中に滑落して亡くなった。
彼は、登山を自撮りするスタイルで時代の寵児になり、エベレスト登頂のインターネット生中継を計画し話題となる。また、その旺盛な行動力もあって億を超えるような遠征費を集めた。
しかし、その派手なパフォーマンスとは裏腹に彼の実像は、体力や技術は低く、とてもエベレストに単独無酸素で登れる登山家ではなかった。また、「七大陸最高峰 単独無酸素登頂」と言っても、酸素ボンベが必要な山は8000メートルより高い山で、アジア最高峰のエベレスト以外は、該当しない、ある意味誇大広告である。また、その「単独」についても、多くのシェルパを雇い、撮影隊まで連れて行く栗城の登山が「単独」に値するかは、疑問を持っている登山家も多かった。
このような栗城の姿勢に登山界のみならず関わった多くの人が違和感を持ち、疑問を感じ、そして離れて行った。この本の著者、河野啓も2年半の間、栗城を取材し、そして離れて行った放送局のディレクターである。
著者は、この本の執筆の動機を次のように語っている。
栗城史多さん。 「夢」という言葉が大好きだった登山家。 「怖ええ」 「ちくしょう」 「つらいよう」 自撮りカメラにそんな台詞を吐きながら、山を劇場に変えたエンターティナー。 不況のさなかに億を超える遠征費を集めるビジネスマンでもあった。 しかし、彼がセールスした商品は、彼自身だった。その商品には、若干の瑕疵があり、誇大広告を伴い、残酷なまでに賞味期限があった。 彼はなぜ凍傷に指を失ったあともエベレストに挑み続けたのか? 最後の挑戦に、登れるはずのない最難関ルートを選んだ理由は何だったのか? 滑落死は本当に事故だったのか? そして・・・・かれは何者だったのか? 過去にどんな登山家よりもメディアに露出し、インターネットの世界では大きな賞賛を受ける一方で激しい非難も浴びた彼の、「不思議」の中にある「真実」を私は探してみたくなった。(抜粋)
「かれは何者だったのか?」 著者のこの問いに答えるために、精神分析や性格分析の視点から多くのことが言えるだろう。少なくとも彼は、世の中の隙間に忍び込む「トリックスター」だったのではないかと思う。ハッタリをかまし、嘘をつき、さんざん周りをかき回したあと、どこかに消えてしまうようなトリックスター。ただ、栗城が暴れた回った場所は、エベレストというあまりにも大きく過酷なところだった。消えてしまう場所は冷たい雪の上しかなかった。
目次 序幕 真冬の墓地 第一幕 お笑いタレントになりたかった登山家 第二幕 奇跡を起こす男と応援団 第三幕 遺体の名は「ジャパニーズ・ガール」 第四幕 エベレストを目指す「ビジネスマン」 第五幕 夢の共有 第六幕 開演!エベレスト劇場 第七幕 婚約破棄と取材の終わり 第八幕 登頂のタイミングは「占い」で決める? 第九幕 両手の指九本を切断 第十幕 再起と炎上 第十一幕 彼自身の「見えない山」 第十二幕 終演~「神」の降臨~ 最終幕 単独 あとがき
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