ポピュリストがすること、あるいは政権を握ったポピュリズム(その5)
ヤン=ヴェルナー・ミュラー『ポピュリズムとは何か』より

Reading Journal 2nd

『ポピュリズムとは何か』ヤン=ヴェルナー・ミュラー 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

第二章 ポピュリストがすること、あるいは政権を握ったポピュリズム(その5)

今日のところは「第二章 ポピュリストがすること、あるいは政権を握ったポピュリスト』“その5”である。ここでは、政権を握ったポピュリストが目指す憲法について議論されている。その憲法がどういう性質をもつかを、ハンガリーや南米諸国の新憲法の事例により論じる。さらに、その憲法が必ずしも彼らが意図したように機能するとは限らないが、非ポピュリストが政権を握った時、激しい憲法論争が起きことを予想している。それでは読み始めよう。

ポピュリズムと反制度主義

ポピュリズム理解のアプローチは多岐にわたるが、多くの論者で一致していることがある。

つまり、いずれにせよポピュリズムは、本来的に機構(mechanisms)に敵対的で、究極的には立憲主義に結びつく諸価値、すなわち多数派の意志の制約、抑制と均衡[チェック・アンド・バランス]、マイノリティの保護、さらには基本権に敵対的であるということだ。(抜粋)

このように多くの専門家がポピュリストは反制度主義的であるとしている。そしてその反制度主義は、第一章で触れた直接民主制の選択(ココ参照)とポピュリズムが、民主主義を「矯正するもの」としての期待に関連している。

著者はこの直接民主制の選択についてはすでに第一章で非難し退けているとしている。また、民主主義の矯正という不適切な期待については、

  1. 多数決主義のメリット
  2. 人民的立憲主義とポピュリスト的立憲主義に区別があること
  3. ポピュリズムが「市民参加」「社会的動動員」の代替物とされていること

をあげ批判している。さらに、とくにアメリカではこのポピュリズムと立憲主義をめぐる議論がすぐに感情的なことになり、専門家が「普通の人びとの政治的エネルギーに対する態度」が悪い、「衆愚政治」を促していると非難されているとしている。

ポピュリストの憲法の目的

そろそろ明らかになったと期待したいが、ポピュリストは概して「反制度」でないし、政権を握ったら自滅すると決まっているわけでもない。彼らは、彼らから見て(経験的にではなく)道徳的に正し政治的帰結をもたらすことができない制度に反対しているだけなのである。(抜粋)

著者は、このように、ポピュリストの反制度主義的であるのは、彼らが反対派(野党)の時だけであり、政権を握ったポピュリストは、制度(彼らの制度)と相性が良いと主張している。

十分な権力を持ったポピュリストは、

  1. 新たな社会政治的な調停
  2. 新たな政治的ゲームのためのルール

のために、新しいポピュリズム憲法を目指す

この憲法は、人民の意志の表現に配慮したり、正しい人民と指導者が直接的な制度で関係性を築いたりするように考えられがちである。しかし、それはそれほど単純ではない。

この制約なき人民の意志への要求は、ポピュリストが野党のときには妥当だが、彼らが権力を握ると、彼らが人民の意志と解釈したものに制約を加える憲法に懐疑的でなくなる。ポピュリストは彼らが確定する人民の意志に応じた立憲体制を確立しようと試み、それによって、彼らが考える道徳的で純粋な人民の永続化を試みる

また、それとは別に彼らの憲法には、より日常的な目的がある。それは、「ポピュリストが政権を維持するのを助ける」という目標である。このように権力の永続化が目的である場合は、その憲法を単なる外見ファザードとして、裏では、これまでと全く異なる運用をすることも可能である。

ポピュリスト憲法の事例

ここで著者は、ポピュリスト憲法の事例 — 古くは、ジャコバン憲法、新しくはハンガリーや南米諸国の憲法 —— から、ポピュリスト憲法の仕組みについて考察する。

ジャコバン憲法

まずポピュリスト憲法の事例として、ジャコバン憲法がある。ジャコバンたちは人民の実際の意思と独立した、ある種の自然権の実現を自らの願望とした。そのため彼ら自身の憲法(ジャコバン憲法)とそれに基ずく選挙が、彼らを権力から取り除く恐れが生じたときに、躊躇なく憲法を停止し、恐怖政治を引いた。

ハンガリーの事例

ポピュリスト憲法の近年の実例として二〇一二年に施行されたハンガリー憲法がある。この憲法に先立ち、拘束力のない「国民アンケート」が行われた。そして憲法起草者はそのアンケートの結果を、自由に解釈し憲法を起草することができた。

二〇一〇年の総選挙で議会の三分の二以上の多数を得たヴィクトル・オルバーンたちはそれを、「投票所での革命」と呼び、彼らは人民から、「新しい憲法」と「国民協力システム」と政府が呼ぶものを打ち立てる命令委任を付与されたとした。

この憲法は、ハンガリー人が「敵に囲まれた世界で生き残りに専心する国民」「良きキリスト教徒」「マイノリティから区別された民族集団」といった特異なイメージが盛り込まれている。そして、その機構の構成を見ると、明らかにポピュリスト政権の永続化が目指されている。この憲法は、「排他的憲法」「党派的な憲法」と呼べるものを意図してつくられた。

その憲法は、特定的な政策選好を不可能としたため、野党の政治的な目標の実現は将来的にも妨げられた

別言すれば、新しい体制のもとで、憲法制定者は、選挙に負けたあとでさえ、自らの権力を永続化できるのである。(抜粋)

ハンガリー憲法は、国民アンケートを反映しているとされるが、レファレンダム(国民投票)には、一度もかけられなかった

ラテンアメリカの事例

ベネゼエラエクアドルボリビアなどのラテンアメリカの国々の新憲法は、選挙で選ばれた憲法制定議会によって策定され、人民投票を求められた。しかし、もともとの憲法は、憲法制定議会で無効化され、「人民の意志」を永続させるとした文書によって置きかえられた。

その創設的な意思は、つねに断固としてポピュリストにより形作られた。(抜粋)

ポピュリスト憲法は機能するか?

実際のところ、ポピュリストの理想は、行政部を強化する一方で、司法部の権威を落とすか、党派的なやり方で裁判官を配置する(あるいはその両方)という形で現実となった。新憲法への移行は既存の公職者の交替を正当化し、こうして新憲法は、「国家を占拠する」というポピュリストの計画に決定的に貢献したのである。(抜粋)

しかし、ポピュリストの憲法は、つねに彼らが意図したとおりに機能するとは限らないと著者は指摘している。

ポピュリスト憲法は、多元主義を無効にするように考えられているが、ポピュリスト体制が選挙をする限り、反対勢力が勝つチャンスがある限り、多元主義は完全には消えない。しかし、そのときポピュリスト憲法は、深刻な憲法紛争を引き起こす

ポイントは次の点である。ポピュリスト憲法は、非ポピュリストが政府を形成したときでさえ、非ポピュリストの権力を制限するために考案されている。それゆえ、紛争は不可避となる。憲法は、政治の枠組みフレームワークであることをやめ、代わりに、政体を争奪するための純粋に党派的な道具となってしまうのだ。(抜粋)

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