『餓死した英霊たち』 藤原彰 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第三章 日本軍隊の特質 – 2 兵士の人権
著者は、「精神主義への過信」につづき、日本軍の特質として「兵士の人権」が低いことを上げる。
日本軍は上官の命令は天皇の命令であるとして、絶対服従を強制した。
元々、日本軍の軍紀は最初フランス陸軍のものを範としているため、不当とする命令に関して請願の道を認めたり、絶対服従を強制したりするものではなかった。しかし、時代が過ぎるうちに徐々に兵士に絶対服従を強制する厳しいものになっていった。その原因を著者は次のように分析している。その原因を著者は次のように分析している。
このような絶対服従の強制が、日本陸軍の特徴であった。もともと陸軍が範としたヨーロッパ大陸国の徴兵制の軍隊は、解放された独立自営の農民、すなわち自立した国民の存在を前提としていた。そうした国民を基盤とする兵士には、愛国心、自発的な戦闘意識を期待することができたのである。ところが日本では、明治維新はフランス革命のようなブルジョア革命とはいえず、農民の多くは未開放のまま取り残された。独立自営の農民が生み出されたのではなく、貧しい小作農や地租の負担にあえぐ小農民が人口の過半数を占めていた。つまり兵士の愛国心、自発性に期待が持てなかったのである。そこで兵士に規律と苛酷な懲罰をもって接したのである。
上級者にたいする絶対服従の強制は、下級者である兵の人権を侵害することになるのは当然である。兵の人権にたいする配慮を著しく欠いたことも、日本軍の特徴といえよう。(抜粋)
もともと明治維新後の日本は欧米の近代国家に比べて、人権の尊重という点では大きな差があった。そして、強制と服従を建前とした軍隊では人権は全く無視された。天皇制の軍隊が制定した「陸軍軍法」、「海軍軍法」では、兵士に対して体罰が定められていて人権の完全な無視である。さらに陸・海軍懲罰令によって軽易な非違に対しては指揮官が懲罰権を持っていた。
そして、このような公的は刑罰以上に私的制裁が横行し、禁止が繰り返し注意されるが、陰湿なイジメは無くならず、下級兵士を苦しめた。このような私的制裁は、野間宏の『真空地帯』など多くの作品に描かれている。
このような人権の無視は戦場では、兵士の衛生や給養の不十分な状態に置かれる原因となり、多くの戦病死者を出すことになった。
また、日本では世界のすう勢のついて行けずに白兵攻撃こそが勝敗を分ける手段として、精神力を強調し、生命を軽んじて、天皇のために死ぬことが日本男児の使命とした。
日本陸軍が日露戦争いらい強調した歩兵の白兵突撃第一主義は、第一次世界大戦の世界では通用しなくなっていた。飛行機、戦車、強力な火砲、機関銃、毒ガス、火焔放射器などの新兵器が現れ、火力の圧倒的優位に歩兵はなぎ倒されるばかりであった。ところが日本軍は、第一次世界大戦では戦闘の圏外にあり、その後も装備の劣悪な中国軍との戦いしか経験しなかった。そのため日本軍は、日露戦争時代の装備のままで、日露戦争後は過去の遺物となってしまった歩兵万能の白兵主義を信奉しつづけた。それがいかに生命の濫費であったかを、たびたび痛烈にみせつけられても改めなかったのである。(抜粋)
関連図書:野間宏(著)『真空地帯』、岩波書店(岩波文庫)、2017年
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