ストレス障害(前半)
福間詳『ストレスの話』より

Reading Journal 2nd

『ストレスの話 メカニズムと対処法』 福間 詳 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

第Ⅰ部 ストレスとは何か   第2章 ストレス障害とPTSD   一.ストレス障害 — 症状と経過(前半)

第1章(前半)(後半)は「ストレス反応」の全体像の話であった。今日のところ第2章は「ストレス障害」の話である。2章は「ストレス障害」、「PTSDとその歴史」の2節に分かれている。今日のところ「ストレス障害」(前半)では、「ストレス障害」の症状について書かれている。


「ストレス障害」とは「ストレス反応が非可逆的になった状態」である。生命の危機を感じるような強力な刺激の場合(PTSDなど)は、短期間で症状は非可逆的になる。一方、生活で受けるようなローリスクストレッサーによる「ストレス障害」は、かなり長い時間がかかる。

ストレス障害の症状は脳の反応であるため、それに関連した臓器も伴って反応することになり、症状は極めて多岐にわたることになりますが、ほぼ一定の傾向があるといえます。以下、ストレス障害の症状の出現様式、よくみられる身体症状、思考や行動の様式変化、そしてストレス障害のターゲットについて説明していきます。(抜粋)

侵入症状(出現様式①)

ストレス障害の症状の出現様式は、「侵入症状」「回避症状」「過覚醒症状」の3つのタイプがある。
「侵入症状」は、「その人が受けた辛い体験に対する怒り・悲しみ・不安感情などやその場の光景が、頭の中で再現される症状(フラッシュバック)」ことである。
大きなトラウマとなるような出来事の記憶は、その時抱いた感情と共にその場の光景(視角記憶)や音声(聴覚記憶)などの感覚がひとまとまりとして記憶される(ワンパックメモリー)。フラッシュバックは、原因となった過去の経験と同じくらいの恐怖感を伴い、その体験が繰り返されることにより、さらにそれがストレス反応を引き起こすという悪循環となる。フラッシュバック症状は、長期化することが特徴である。

回避症状(出現様式②)

ストレス障害では、無意識のうちに刺激から逃れたいという思考や行動が生じる。刺激に対して拒絶的になり、脳に刺激が行かないように、刺激をバリケードするようになる。しかし、ストレスの原因となる刺激は受動的な刺激でブロックすることは難しい。その結果、プラス刺激がなくなり、すべてマイナス刺激に支配されてしまう。そのような状態になると、「生活が楽しくなくなる」「何をするにも億劫になる」「記憶力が低下する」「現実感が薄れ、離人感が生じる」「コミュニケーション能力が低下する」「書籍や文章などの活字の理解が困難になる(インプット障害)」などの症状が現れる。

そして、現実を受け入れたくない、逃げ出したいという気持ちが強くなることから、逃避的な行動や思考パターンが発生する。その逃避行動として、「過食や拒食」「アルコールや薬物の依存症」「騒動買い」などがある。また自らの苦悩から逃れるために自分以外のものに特定の感情、主に怒りの感情を向ける場合がある。

特殊な例として、解離性(転換性)障害(ヒステリー症状)、つまり「記憶と知覚と身体運動の統合が失われ、自己コントロールできなくなった状態」となる。これにより「声が出せなくなる(失声)」「足が動かなくなる(失立)」「目が見えなくなる」「味覚異常」「聴覚の低下」「喉の奥にボールが入っているような感覚(ヒステリー球)」などの症状となる。さらに記憶と知覚と身体運動の統合が失われると、「自分誰なのかわからなくなる(解離性健忘)」「外界の刺激をすべて遮断してほとんど動かなくなる(昏迷)」「何かに取り憑かれているかのごとく行動する(憑依状態)」「複数の人格が同一人物の中に混在する(多重人格)」という状態になることがある。

過覚醒症状(出現形式③)

ストレス反応が起きたとき、脳は興奮状態にある。そのため脳は刺激に対して過度に敏感になる「易刺激性の亢進」状態となる。五感は刺激に対して過敏となり、また圧迫感のある空間では、不安や恐怖を感じるようになり、パニック障害の発作に結びつくこともある。ストレス障害ではこのように興奮・過敏状態が長時間蔓延するので、著しい疲労を覚える。この疲労は肉体疲労と違い休んでも回復せず、逆に疲労感が強く感じられる場合もある。さらに睡眠も阻害される。

身体症状

ストレス障害は、脳の変化に伴い体内の生理的な変化が生じる。代表的なものは「自律神経系の変化」と「副腎ホルモンの変化」である。
自律神経系では、交感神経が優位となりその緊張が続くとアドレナリンの作用が強くなり、顆粒球が増加する。アドレナリンの増加により血管が過度に収縮し血流障害を起こす。顆粒球が増加すると、常在菌のバランスを崩し粘膜組織を破壊する。
ストレスが加わると副腎ホルモンのコルチゾールの分泌が促される、そしてその状態が長く続くとコルチゾールが枯渇し、命に関わる重大な病気(心筋梗塞、脳梗塞、動脈瘤、癌など)に発展する可能性がある。

このような自律神経や内分泌系の変化は、多種多様な身体症状として出現する。

  1. 消化器系の症状:胃もたれ、胃痛、吐き気・嘔吐、下痢、喉の渇き
  2. 呼吸器系の症状:呼吸苦、胸の圧迫感など
  3. 循環器系の症状;頻脈、血圧上昇、末梢の冷え、ふらつき、めまい、耳鳴り、耳閉感、整脈、動悸など
  4. 筋肉・骨格系の症状:手足のしびれ、頭痛、肩こりなど
  5. その他の症状:脱毛、微熱、眼瞼けいれんなど
  6. ストレスに強く左右される疾病(心身症):不整脈、帯状疱疹、突発性難聴、片頭痛、蕁麻疹、高血圧、アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、喘息など

思考と行動の様式変化

ストレス障害における感情の動きは、バランスが崩れるために健康時と異なる。「敏」と「鈍」の二面性があり、何をしても面白くないような状態になる、一方、五感が敏感になりピリピリと張りつめた感情がしばしば湧き上がる。
「恥」や「罪」などの感情が強く伴い、不甲斐なさ(恥)多大な迷惑をかけている(罪)などの感情が過度に増強・歪曲され、妄想的解釈を伴い病的な感情となる。そして一般にフラストレーションが加わると発信源に対して攻撃性が生じる。その矛先が自分に向かうと、自傷、自殺未遂、八つ当たりなどの行為となる。

ストレス障害の患者さんはある意味で自分に降りかかった難題に、真面目に真剣に必死で取立ち向かった挙句に打ちのめされて挫折してしまった人々です。行為や、も目論見に介在するゆとりすらなくなっているのです。逆に恥知らずで無責任、無頓着なストレス障害の人は皆無といっても過言ではありません。(抜粋)

ストレス障害のターゲット

ストレス障害は、その人の身体的、心理・精神的な弱点をターゲットにする傾向がある。そのため、個人により同じストレッサーでも大きく反応が異なることがあり、ストレッサーだけでなく個人の特性にも注目する必要がある。例えば糖尿病、高血圧、アトピー性皮膚炎や喘息など身体的な疾病は、比較的軽いストレスがかかるだけで病状が悪化する。さらにうつ病などの精神疾患の場合は影響が強く出る。このような疾病以外でも、借金を抱えている、夫婦の不仲、劣等感や両親からのDVなど過去があると、やはりストレスに弱くなる。

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