今をみつめる(前半)
小友 聡『それでも生きる 旧約聖書「コヘレトの言葉」』より

Reading Journal 2nd

『それでも生きる 旧約聖書「コヘレトの言葉」』小友 聡 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

第5回 今をみつめる(前半)

今日から第5回目である。ここでは、旧約聖書の「ダニエル書」の黙示思想と「コヘレトの言葉」の関係が説明されている。このダニエル書との関係は、著者の研究の成果である。(これについては、以前読んだ『コヘレトの言葉を読もう』「あとがき コヘレトの言葉と私」を参照)


ここまで「コヘレトの言葉」を読んできて、コヘレトという人の二面性に気づかれたかと思います。「私は人生をいとう」(2章17節)と言ったかと思えば、「あらゆる労苦の内に幸せを見いだす」(3章13節)と言う。ニヒリストかと思ったら、人生に肯定的な態度を見せる。ちぐはぐなことを言う支離滅裂な人だと、とまどわれた方も多いでしょう。(抜粋)

冒頭、このように著者は語り始める。「コヘレトの言葉」は、このように一見、支離滅裂に見えるが、しかしよく読むと一貫したことを述べているとしている。第1章の詩文には、太陽も、風も、川も、果てしなく繰り返し、永遠に循環するという内容の部分がある。ここでコヘレトが表現しているのは「終わらない世界観」である。

この世には始まりがあり終わりがある、というのが聖書の基本的な歴史観である。天地創造から始まり終わりの日に神の国が到来する、これが「救済史的歴史観」であり、そして「終末論」に繋がっている。

しかし、コヘレトはこれを否定している。「この世に終わりなどない、終末はこない」とコヘレトは考えている。この「終わりはこない」という考え方は、もともと旧約聖書に見られる考え方で、「創世記」や他の知恵文学にも、このような考え方がある。

コヘレトの言葉の最後の詩文には「塵は元の大地に帰り、息はこれを与えた神に変える」と書かれていて、これは最初の詩文と対応している。コヘレトは、最初と最後に同じ言葉を使うことにより一貫した世界観を示している。
この「終末論」は、多くの宗教や地域で存在したものであるが、紀元前三世紀以降、起源一世紀ころまでユダヤ社会で「黙示録」として興隆した。「終末論」は、旧約聖書の「ダニエル書」で「秘密(終末の日)を啓示する」として何度も出てくる。この終末は、「苦難の時」であるが「殉教者」が復活すると書かれている。ユダヤ・キリスト教の「復活信仰」はこのダニエル書から顕在化したと考えられる。

この「終末論」に特徴的なのは、「未来」に強く憧れ、現世に価値を置かないことである。もともと旧約聖書の中には、いつか来る終末の日に救世主が到来し、人々が救済されるという歴史観があり、その日まで神を信じて、律法を守って正しく生きることを是としていた。しかし、このころ「ダニエル書」から読み取れるような極端な終末論を唱えるグループがユダヤ教団に現れて混乱を引き起こす。そして、コヘレトは、終わらない世界を示すことで現世に価値を置くユダヤ教の認識を提示した。著者はそのように推測している。

ここで、著者は「聖書の終末論を説明する際は、ある種の慎重さが求められます」といって注意をしている。
新約聖書の「ヨハネの黙示録」には「ハルマゲドン」という言葉が出てくる。この部分の恐ろしい表現から、この「ハルマゲドン」はキリスト教の枠を超え「恐ろしい終末」を象徴する言葉となった。そしてオウム真理教が第三次世界大戦を「ハルマゲドンの戦い」と評したり、一九七〇年代に『ノストラダムスの大予言』という本を通じて、「1999年7月に恐怖の大魔王が降ってくる」という説が大流行したりした。
しかし「ヨハネの黙示録」で語られる「終末」は、必ずしも「未来」ではない。「ヨハネの黙示録」の成立時期(紀元九〇年ごろ)はローマ皇国によるキリスト教の弾圧が行われた時期であり、ヨハネの記した「神の裁き」はローマ皇帝に対する制裁を願望としてあらわしている。つまり「ヨハネの黙示録」の終末はいつか来る遠い未来ではなく、近い将来にローマ帝王に下される「神の裁き」である。

このノストラダムスのように終末の時期を予告した終末論は「ダニエル書」に影響をされている。「ダニエル書」には、終末の日を「千三百三十五日」後と書かれている。しかし、聖書に書かれているのは、このような黙示的な終末論だけではない。


「ヨハネの終末論」のところで不吉な数字として有名な「666」について言及がある。これは、「ヨハネの黙示録」13章18節にあり、「666」という謎の獣の名前である。そして

「666」は、ヘブライ語で「皇帝ネロ」を示す暗号であって、獣は暴君ネロの再来と言われた皇帝ドミティアス(在位八一 - 九六年)を暗喩しているのです。(抜粋)

なるほど、これは知っていると・・・・自慢できるかも!(つくジー)


関連図書:小友 聡 (著) 『コヘレトの言葉を読もう 「生きよ」と呼びかける書』 日本キリスト教出版局 2019年

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