ナタリー・サロート
ジャン=ルイ・ド・ランビュール 『作家の仕事部屋』 より

Reading Journal 2nd

『作家の仕事部屋』 ジャン=ルイ・ド・ランビュール 編
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

ナタリー・サロート – スナックの片隅のテーブル

ナタリー・サロート (Nathalie Sarraute) は、最初弁護士として働いたのち作家になった。彼女の作品は《トロピスム》よっている。この《トロピスム》とは、もともと《屈動性》を意味する生物学用語であるが、日常のさまざまな葛藤を覆いかくし、あるいは暴露する反応ないし動き〈欲望、嫌悪、嗜好、たじろき〉を意味する。彼女の作品は、現代フランスの《探求文学》の原形をなす。

《トロピスム》

私が仕事の方法をもっているかですって?それは落とし穴の多い質問です。(抜粋)

私は、登場人物の創造とか《先在する現実》の再現を目指しているのではなく《トロピスム》と呼んでいるものを問題としている。いかにもそれらしく見える登場人物は《だまし絵》にすぎない。私の作品には、二つの面ないし水準で書かれ、ひとつは、たやすく目につく外観で、もうひとつは目に見えない《トロピスム》という水準である。

小説の書き方

一冊の書物の大部分は無意識のなかで成熟する。そしてある仕事にとりかかる時は、いつもその小説について幾何学的なヴィジョンを持っている。

問題はこの全体的なヴィジョンを、個々の具体的イメージに翻訳、表現することであり、最初は多かれ少なかれ漠然とした形で私を襲う感覚を、あるリズムのなかでとらえるのに成功することなのです。(抜粋)

そしてそれが達成したら、後はひたすら書くことになる。

小説を書き進める過程は、非常に緩慢である。ひとつの小説を書きあげるのに三年から五年かかる。

仕事は、二段階にわかれ、まず第一に、すでに既知のものを排除し、それまで散らばっていたあらゆる感覚を寄せ集め、最初から最後まで第一稿を書きあげる。ここまでに普通二年かかる。そして次の段階として、詩を書く時のようにひとつひとつの単語に気を配り、練りあげながら全体を書く。

仕事の方法

私は日曜を含めて毎日仕事をする。そして、午後の終わりごろに、頭の中で翌日の仕事を準備している。この規律から理想的な仕事場はスナックである。

行きつけのスナックがあって、毎日九時半から正午まで居座るんですが(田舎では隣り村のカフェに行きます)、そこなら気を散らすようなものも、新聞も本もありません。片隅の小さなテーブル、タイプ用紙、フェルトペン(もし忘れてくればすぐいカウンターで買いますし、使い古したら捨ててしまいます)。仕事に使うものがごく普通の、なんでもないようなものであること、それがいかなる種類マニアも表現していないことが私は好きなのです。それにスナックなら安心していられます。まるで旅先のような気分になれる。人々や活気に取り巻かれていると同時に、ひとりきりでもある。というのも誰も私のことを気にかけませんから。(抜粋)

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