『作家の仕事部屋』 ジャン=ルイ・ド・ランビュール 編
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
A・P・ド・マンディアルグ – 筆が進むのはパリとヴェネチアだけ
A・P・ド・マンディアルグ (André Pieyre de Mandiargues) 中近東とヨーロッパの国々を旅した後、シュールレアリスムの影響のもとに詩的散文を書きはじめた。残酷なエロティスムに彩どられた幻想的な雰囲気を醸し出すのに、彼の右に出るものはいない。
仕事の方法
自分の仕事の一部はまさに何もしないことから成っている。書斎の長椅子に寝ころんでまどろんでいることも多い。しかしこの方法は、私の利用できるもっとも強力な創造手段である。そして街のなかでも仕事をしている。散歩中に頭の中で物語を想を練っている。群衆の往来、地下鉄、それこそがかけがえのない仕事場である。
言うまでもなく私は書くことが好きです。しかし容易な仕事ではありません。書きはじめるためには、無意識の夜の闇から主題が立ち現われ、私の生涯の一時期になされた配備が十分に裏づけられるように思えるほどの力をもって、却けがたいものになる必要があります。ある作品の着想が浮かんでから実際にそれを書き出すまで、時には数年の歳月が流れることもあります。(抜粋)
戦時中に文筆活動を始めたころは、自分の見た夢を丹念に書きとめた手帳を持っていた。そして、麻薬ではないが、コーラの葉を紅茶に溶いて飲むようなこともしていた。現在ではこのような脳を刺激する薬品類は使っていない。
年をとるにつれてだんだん夢を見ることが少なくなってきた。そしてその泉の涸渇の穴埋めをするために、いまは自分に厳格な苦行をかしている。すなわち、煙草もアルコールも断ち、定められた時間割を守っている。
午前中は客を迎えたり散歩したりする。早い時間に昼食をとり、昼寝をしてから、毎日午後は強制的に仕事机に向かう。
もっともそのまま濃い紅茶を三、四杯飲みます。ただしそれはパリにいる時だけですが。夏をすごすヴェネチアではコーヒーを飲みます。というのも、ここで申し上げておかなければなりませんが、筆が進むのはパリとヴェネチアだけなのです。(抜粋)
しかし、仕事机にむかっても、その前ではごくわずかなことしかしない。文章をいくつか、単語をいくつか書きつけるだけである。どうしても書けないときは、ヴォルテールの短編を二十頁ほど読むことにしている。いずれにせよ、一気に書きあげるようなことはできない。
原稿は極細のペンで望ましい完成度に達するまで何度も書き直す。
私の場合、執筆という仕事の本質的な部分は、それが小説であれば文章の音楽的探求から成っており、詩であれば辛抱強い言語の結晶化から成っているのです。それはいわば深い奥底から浮き上がってきた泡のようなもので、言葉の順序が不動のものになるときまで、完成したと見なされないのです。(抜粋)
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