大和物語ーー歌物語から説話文学へ
山口 仲美 『日本語の古典』 より

Reading Journal 2nd

『日本語の古典』 山口 仲美 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

II 貴族文化の花が咲くーーー平安時代
   8 大和物語ーー歌物語から説話文学へ

今日のところは、『大和物語』である。著者は、この『大和物語』は、『伊勢物語』と同じ歌物語だが、随分と違った味わいがあると言っている。『伊勢物語』では、和歌がつねに話のクライマックスだが、『大和物語』では、和歌よりも話の方に重点を置かれている。っということで、この章のテーマ「歌物語から説話文学へ」になるようである。では読み始めよう。


『大和物語』は、一七三段からなり一四〇段以後は、ぐっと説話的になる。この章では、一四九段の話を取り扱う。この話は、『古今和歌集』や『伊勢物語』(二三段)にも登場していて、『大和物語』と『伊勢物語』の比較に便利である。

ここから話が始まる。
まず、やまとのくにに長年連れ添った夫婦がいた。二人は仲睦まじく暮らしていたが、妻の家が大変貧しくなってしまった。当時は、妻の方で夫の衣装などの面倒を見ることが習わしで、実家の経済力がなくなり、夫に尽くしてあげられなくなった。男は、妻を愛しながらも生活が不如意なので、他に新しい妻を作ってしまう。

今の妻は、富たる女にてなむありける」。(抜粋)

ここで、著者はこの「なむ・・・連体形」の強調形について、「これは、相手の眼をみながら念を押しつつ語る口調」であると注意している。

新しい妻は男が通うと大いにもてなし、立派な衣装も整えてくれた。男は次第に元の妻の所に寄り付かなくなっていった。そして、たまに元の妻の所にきてみると、みすぼらしい様子で暮らしている。

かくほかにありけど、さらにねたげにも見えず(=こんなふうによその女のところに行くのだけれど、いっこうに焼餅を焼いているようにもみえない)」。(抜粋)

そして、男がその日は元の妻の所に泊って行こうとすると

なほ、いね(=やっぱりあの人の所に行ってあげて!)(抜粋)

と妻は言う。男は別の男でもできたのではないかと疑って、新しい女の所に行くふりをして、庭の植え込みの中に隠れて様子を伺った。

月が、夜空に美しい。妻は縁側に出て、「かしらかいけづりなどしてをり(=髪の毛をとかして座っている。)」。(抜粋)

男は、他の男でも待っているのだろうと思っていると、女は召使に言った。

風吹けば 沖つ白浪 龍田山 にや君が 一人ゆらむ(=龍田山を、湖の夜半にあの人は、一人で超えているのかしら?)(抜粋)

妻は夫の身の上を案じていた。さらに妻は泣き伏して、金属のお椀に水を入れて胸に当てた。すると、この水が熱湯になって沸き立つ。

実に描写が具体的。誇張されてはいるけれど、水が熱湯になるくらい激しい嫉妬心を妻はじっと抑えて、なだらかに夫に対応していたのです。(抜粋)

夫は、ハッと我に返って、以後新しい女の元へは行かなくなった。その後多くの月日がたってから男は思った。

つれなき顔なれど、女の思ふこと、いといみじきことなりけるを、かくいかぬをいかに思ふらむ(=表面は何気ない顔をしているけれど、女が心で思うことはすごいことだったから、こんなふうに自分が行かないのをあの新しい女はどうおもっているだろう)」。(抜粋)

そして男は様子を見に行った。そして隙間から覗くと、女は自分の前では上品にきれいに見せていたけれど、すごく見苦しい着物を着ていた。そして、

この男はおほきみなりけり(=この男は王族だったんだとサ)」(抜粋)

と男が我慢できなかった理由を説明して終わっている。

この話は『伊勢物語』では、新しい女が、男を慕う歌を二首も詠んで男を待っているという展開にしている。『伊勢物語』では、歌に重点があるためある程度、話の展開は犠牲にしている。その点『大和物語』は、筋の展開が自然になるように工夫されていて、当時語られていた歌語りを元に、激しい嫉妬心に打ち勝つ女の話に仕立て上げられている。

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