『無気力の心理学 改版 : やりがいの条件』 波多野誼余夫/稲垣佳世子 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第2章 乳幼児の無力感・効力感
第1章では、実験事実に基づいて「どのようなときに無力感が生じるか」について解説された。第2章では、乳幼児についての研究が解説される。
まず、次のような状況を想定する。
「生後2ヶ月の赤ちゃんが、泣き声をあげ始める。しかし、だれも赤ちゃんの声を聞きつけてやってこない。何度も大きな声で泣くが、状況は変わらない。そして、しだいに泣き声が小さくなり、また眠ってしまう。」
この状況は、赤ちゃんにどのような影響を与えるだろうか?
最近の心理学的知見では、この状況が何度も繰り返されると赤ちゃんに「無力感」が獲得されるおそれがあるとしている。
この観点から見ると、人手が不足している施設の乳幼児に見られる顕著な発達の遅れと無気力・無感動状態(これをホスピタリズムと呼ぶ)が説明できる。
それでは、人生の初期の、泣くことに対する応答の返ってくる経験、あるいはもっと一般的に、自分の働きかけの結果、不快の除去に成功するという経験は、後の発達にどのような効果をもたらすだろうか。(抜粋)
これについては、ベルとエドワースの研究によると、発達初期に乳幼児が泣いたときに、母親がすぐに対応したほうが、後の時期には、返って泣くことが少なくなるという。また、乳幼児が不快を示した時にすぐに反応したほうが、子供が意欲的であることを示す証拠がある。
発達初期に、「自分が環境に影響をもたらすことができる」という経験をもつことは、もうひとつ注目すべき効果をもたらす、それはおとなになって失敗場面に出会っても無力感におちいりにくくなる。ということである。(抜粋)
ここで著者は、乳幼児が泣いた時に、すぐに反応することで無力感におちいるのを防ぐばかりでなく、効力感を得られると考えても良いだろうか、と疑問を呈する。
これについては、ルウィスなどは明らかに肯定的に答えているとしている。
ただし、効力感を形成するには、泣き声に応答するだけでは、不十分で、乳幼児がほほ笑んだらほほえみ返したり、快の意思表示への応答必要であるとしている。そして、もう一つ重要なこととして、物理的な環境を自分の力でコントロール出来たという経験は、子どもに大きな喜びを与えるとして、ブロンソンの実験を紹介している。
最近の心理学の地検によれば、人間は本来、環境に自分の活動の影響を及ぼしたり、環境を理解してコントロールしたいという要求をもち、たえず環境と相互交渉をしている存在であると言われている。環境との成り取りの過程で、そうした要求が充足されることは、人間にとって非常に快適な経験になるのだといえよう。このことを最初に主張したのは、ロバート・ホワイトであるが、現在、多くの発達心理学者よって、この考えは、支持されている。(抜粋)
著者はこれを一般化して、自分の活動により環境が「興味深く」変化するという体験により、ますます環境に働きかける動機づけとなり、そのような体験が積み重なることにより、自信と意欲的な態度、すなわち効力感が生まれるとしている。
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