『モチベーションの心理学 : 「やる気」と「意欲」のメカニズム』 鹿毛雅治 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第7章 場とシステム―環境説(その7) 4 「システム」としての環境(その3)
今日は、4節「「システム」としての環境」の3回目。今日のところは、「自発的な行為を促す」ための「自己調整」と「エンパワメント」についてである
太陽型の環境をデザインする場合、「自発的な行為を促す」ことがポイントである。そのためのテーマは、
- 自己調整:自分の行為について自分自身でモニターし、自ら修正したり調整したりすること
- エンパワメント:当人の潜在的能力が発揮できるように権限を与えること
である。ここでは、「応答性」「随伴性」「権限性」の3つをキーワードとして解説される。
応答性
ここで著者はまず「トーキング・タイプライター」の実験を例として解説している。
トーキング・タイプライターの実験とは、幼児にキーボートとモニター画面によって構成された「話す機械」を与えてその反応を観察するものである。
- タイプライターのキー(例えば a )叩くと対応した文字が( a )が現れ、発音が聞こえる。幼児はしばらくの間この遊びを繰返す。その仕組みがわかって来ると次第に飽き始める
- 突然、モニターの画面に文字が出現し、発音が聞こえる。同時にその文字以外のキーがロックされる。すると幼児は、押すと動くキーを探し始める。そのキーを発見して押すと、その文字が画面タイプされた発音が聞こえ、別の文字が画面に現れる。この遊びで幼児は自然に文字と発音が学べる。
- 文字に変わって単語が示される( Baby の場合、b、a、b、yが発音され最後にBabyと発音される)。今度は幼児がその単語を正しい順番でキーを押すときのみキーが動き、単語が画面に現れる。
このトーキング・タイプライターのように、当人の働きかけに応じて環境側から適切な反応が返って場を応答的環境という。このような環境を体験するプロセスを通して、効力感(第5章1節)が高まり、意欲的な学習が促される。(抜粋)
随伴性
「応答的環境」には、フィードバックが組み込まれている。人のアクションに対する環境側からのリアクションは、フィードバックであり、アクションに随伴して生じる。この随伴性が「自発的な行為を促す」ポイントの2つ目である。
ここで問題は、モチベーションを促すには、どのようなフィードバック・システムであるべきか、フィードバック情報はどのような内容であるべきかである(「ほめ言葉」の項目を参照)。ここでは、自己調整とエンパワメントという観点から「フィードバック・システム」としての自己評価というテーマに着目する。この自己評価のためのフィードバックは、「多様な観点からの目標設定」と「達成度の可視化」が有効である。
ここで著者は、1節で失敗例と紹介された「目標管理」が、この目標、フィードバック、自己評価を組み合わせたシステムの代表例であるとし、この場合はシステム設計する際に「人間性」の洞察が十分でなかったため、太陽型のアプローチでなく北風方のアプローチになってしまったと注意をしている。
目標は本人が納得した目標である必要があり、目標管理では、必ずしも本人が納得した目標が設定されたわけでないことが失敗の原因ともなっている。
では、われわれは何に留意したらよいだろうか。(抜粋)
ここで著者は、太陽型アプローチとなるための留意点をあげている。
このようなシステムは、成長説の諸理論を基盤とし「人間性」を踏まえる必要がある。
自己評価システムは、パフォーマンス目標(競争・能力の誇示)よりもマスタリー目標(進歩・向上)の設定を促し、それに対応するフィードバックを与えるようにする。そして、マスタリー目標の設定に関しては、具体的な成果や成長が当人に実感できるようにすること、課題の質や中身に着目し、それに対する熟達や能力の伸長に注意が向くような行動を具体化、明確化できるような目標を設定できるように促すことが有効である。
権限性
「自発的な行為を促す」ためのポイントの3番目は、権限性である。著者はここで薬の服用に関して、権限性(選択の機会)を与えて習慣化に成功したエピソードをあげて、この権限性を解説している。このエピソードでは、患者に服用に関して選択する機会を与え、本人が考え決断することをサポートすることで服用の習慣化に成功している。患者が服用に対する権限を感じ、責任感が芽生え、習慣となった。
これこそエンパワメントだろう。説得や指示といった北風型アプローチよりも、相手の潜在的能力を信じて、権限を委ねるという太陽型アプロ―チのほうが効果的であることを、このエピソードは示唆している。(抜粋)
権限性とは、当人の意志や意向がどの程度反映されているかという観点からみた環境の性質である。
ドゥ・シャームが指摘したように、人は元来「コマ」ではなく「指し手」、自らの行為のエージェント(行為主体)であることを望んでいる(ココ参照)。すなわち「自ら進んで取り組んでいるんだ」という知覚(オリジン感覚)が持てるような環境を作り出すことが求められる。
特に「選択の機会」は、セルフ・コントロールと自律性の知覚を促進するためモチベーションを高めることが分かっている。しかし、むやみに選択肢が多ければよいわけでなく、「選択肢の数が2から4つのときに内発的動機づけが高まる」というメタ分析の結果もある。
当人にとって有意義な選択であるべきで、そのためにも、選択することの意義や、選択肢それぞれの意味を十分に理解してもらうことが大切だろう。環境側には、当人が選択する前にそのための基本的な情報をわかりやすく提示するという配慮が求められる。(抜粋)
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