「システム」としての環境(その2)
鹿毛雅治『モチベーションの心理学』より

Reading Journal 2nd

『モチベーションの心理学 : 「やる気」と「意欲」のメカニズム』 鹿毛雅治 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

第7章 場とシステム―環境説(その6)   4 「システム」としての環境(その2)

   今日は、4節「「システム」としての環境」の2回目。前回(その1)は、「北風型アプローチ」「太陽型アプローチ」の違いと、マグレガーやアージリスによる「太陽型アプローチ」の優位性について解説された。今日のところは、それを受けてドイチェの理論から発達した「社会構造理論」、つまりグループでメンバー同士がどのような相互依存関係にあるかに着目した理論についてである。


第7章2節では、ドイチェ社会的相互依存理論が紹介されている。その特徴は、競争を協同と対比した点である。ここで、

  • 競争:「誰かが得をすると自分が損をする」、「他者の成功が自分の失敗になる」というメンバー同士の利益がセロサム状況であるシステム
  • 協同:「グループのメンバーが報酬(あるいは罰)を分けあうシステム」

このドイチェの考え方は、「競争的目的構造」「協同的目的構造」そしてメンバー関係に依存関係のない「個人的目的構造」を加えた「社会的相互依存理論」として整理されている。

競争的目的構造

「競争的目的構造」では、能力評価が強調され、自己と他者の比較が促される(ココ参照)。そしてパフォーマンス目標に基づくモチベーションが促される。

協同的目的構造

「協同的目的構造」の場合は、メンバー間に互恵的関係が生じるため、相互に援助し合うモチベーションが促され、チームとしての成果が高まり、さらに個々のメンバーの能力も高める効果がある。そして、その特徴は、お互いを助け合うことに価値が置かれるため、道徳的な色彩を帯びるということである。個々のメンバーの意識は常にグループにあり、各メンバーは私たちという観点から自己評価することになる。

特に、モチベーションという観点から見逃せないポイントは、「私たちならできる」(自らが所属するグループ自体に課題を達成する能力がある)という信念がグループのメンバー間で共有される場合、協同の効果が顕著となるという点であろう。(抜粋)

このこの「私たちにはできる」という信念は、個人の自己効力に対応して「集団効力」と呼ばれる。

この協同の意義については、「教育心理学」で強調され研究成果が蓄積されている。
協同が学習成果に及ぼす心理プロセスは、

  1. 共通の目標が社会的結束を促す
  2. 学習に対するモチベーションだけでなく、責任や援助を基盤とする社会的モチベーションも高める。
  3. コミュニケーションや援助行動などの社会相互作用が促され、社会的相互作用パターン(相互信頼に基づく行為、情報や道具のシェア、援助やフィードバックの提供、励まし合い、相互説明、複眼的な視点など)が生じて、パフォーマンスが向上する
  4. モチベーションが高まるプロセスを通して社会的結束が強まる
  5. モチベーションが高まるプロセスを通して社会的結束が強まる
  6. 社会的結束とモチベーション、モチベーションと行為の質との間に好循環が生じるというものである。

この協同の効果は、達成に関する判断がチームに委ねられ、情報やリソースがメンバーでシェアされ、支援し合う状況では、成果が上がるだけでなくメンバーの満足度も高い

個人的目標構造

「社会的相互依存理論」では「競争」「協同」のほかに「個人的目標構造」というシステムが加えられている。「個人的目標構造」とは、自分の成功と他者の成功はお互いに無関係で、報酬は単純に個々の達成水準に基づくシステムである。
この場合には、個々の関心が課題の熟達に向くためマスタリー目標が促進され、その意味では望ましい環境と言える。しかし、これは見方を変えると一切を個人に丸投げするシステムであると著者は注意している。そのシステムが効果的かどうかは、一人ひとりの個人差(当人の能力、特性レベルのモチベーションに依存し、その環境システムを活かせるかどうかは個人しだいだからである。

この3つのシステムのうち太陽型アプローチとしては、「協同的目的構造」が最も優れていると考えられるが、それには幾つもの前提条件を乗り越えなければならない。

「良好な人間関係」が大前提となる。協同では個々のメンバーが他のメンバーを受容し、信頼し、行為を持つという心理状態にあることが条件で、他者への援助が自然に生じるような人間関係が前提となる。また、一人ひとりの「社会的スキル」「リーダーシップの役割」も重要である。
道徳が強調された協同は、息苦しく、成功すればよいが失敗した場合には、仲間割れが生じることがある。特に貢献度が低いメンバーに責任追及の矛先が向かうことが多く貢献度の低いメンバーに対する否定的な評価が促進される。
この「仲間割れ」や「悪者探し」の理由の一つとして、チームへの貢献度に個人差があり不公平感が生じるという問題がある。「衡平理論」では、人は、インプット(I:努力など)とアウトプット(O:報酬など)の比(O/I:労力に対する見返り)を見積もる。この比が、他のメンバーと比較して同じであれば「フェアー」とみなされモチベーションが保たれるが、この比が異なると不公平だと認知されてその状態を解消するように動機づけられると考えられている。そのため、他者に比べて貢献しすぎたメンバーが不満をもったり手を抜いたりするなどをする事態が生じ、低水準のモチベーションとなり全体としてパフォーマンスが低下する。そのため協同的構造目的構造のほうがモチベーションは低下するという見方もある。
(他者の存在によって個人の努力量が低下する現象は「社会的手抜き」と呼ばれる。)

結局のところ、協同とはシステムの問題ではないのだ。それは、人間関係が織りなすダイナミズムによって生じる現象であるとともに、個々のメンバーの責任感や課題に対する重要性の認知といった個人差に依存する現象でもあるからだ。実りある協同の場を実現するためには、まずその前提として、対人的な環境のあり方や、社会的存在としての個人が問われているのである。(抜粋)

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