没頭メカニズム
鹿毛雅治『モチベーションの心理学』より

Reading Journal 2nd

『モチベーションの心理学 : 鹿毛雅治「やる気」と「意欲」のメカニズム』 鹿毛雅治 著 
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

第5章 学びと発達―成長説(その3)
   2 没頭メカニズム - 集中する、熱中する、夢中になる

にも書いたんだけども「没頭」というと、斎藤兆史の『努力論』を思い出す。没頭するほど真剣に取り組んでいる時は、もはや努力しているという感覚は無いという話だった。そういう話が書かれているのかな?とちょっと思った。では、読み始めよう!


まず最初に、オープン教育の伝統校であるサソベリーバレー・スクールの話がある。「子どもは自分から学びたいと思えば自ら学ぶはず」という考え方から、この学校には授業がない、先生もいない。ただスタッフという大人いるだけである。子供たちは自分の興味が向くままに学び、スタッフはそれを見守り、子どものニーズには真摯に応えている。
オープンスクールについては、『無気力の心理学』にも書いてあるようだがブログではあまり触れていない(ココ参照)。)

この学校の創始者であるダニエル・グリーンバーグは、興味を「何となく面白そうだな」という「何気ない興味」「真剣な興味」に分けて区別し後者が重要だと指摘した。
真剣な興味は粘り強く、次の3つの特徴があるとしている。

  • 1.当人の注意がそのことのみに焦点化して感覚を超越する
  • 2.誰のものでもない自分自身の活動だと感じていて、疲れ知らずである
  • 3.先延ばしせずに「今、やりたい!」と居ても立ってもいられない気持ちになる

これは、「エンゲージメント状態」もしくは、「内的動機づけ」状態そのものである。グリーンバーグは、この「真剣な興味」こそが教育上最も重要としている。

「興味」は、モチベーション研究の専門用語であり「ある特定の対象を意識して、注意を向けつづけ、それに対して積極的に関与しようとする心理状態」「努力しているという意識なしに自ずと対象に注意が注がれ、集中力が発揮されるという心理現象」を指しているのである。すなわち「真剣な興味」は典型的な意欲である。

興味は、その内容や領域に特化した心理現象であることに特徴がある。興味にも、その時その場での状態レベルの興味(状態興味)、個々人で差がありある程度安定している特性レベルの興味(特性興味)がある(ココ参照)。そして、興味はその場の状況に影響を受ける。

このように、興味とは、特定の対象・環境と特定の個人とのいわば「出会い」によって生じるユニークな現象だ。しかも、興味体験を繰り返すことで、その人ならではの特性興味が育まれ、ひいてはそれが個性的な成長を支える要因として、安定的にモチベーションを維持しながら高めたりするのである。(抜粋)

次に著者は、アガサクリスティーの探偵小説を例にあげ、「興味がなぜかくたてられ、自らエンゲージメント状態に至るのか」について説明する。

この現象に関係するモチベーションは「認知的動機づけ」と呼ばれる現象である。この分野には「知的好奇心」に関する知見が蓄積されてきた。そしてここでのキーワードはズレである。

人には、情報を体系化して理解しようとする学習システムが生まれつき備わっている。そのおかげで、日常的に活用している「既有の認識枠組み」(認知標準)と、環境から受け取る「新しい情報」とのズレ(不一致)が感知され、そのズレを解消しようとする自生的なプロセスを通じて学習が生じる。(抜粋)

「認知的動機づけ」の研究は「知的好奇心」を「拡散的好奇心-特殊好奇心」「知覚的好奇心-認識的好奇心」という二つの軸による二次元に分類することで理解が進んだ。

知的好奇心には、ズレを求めるプロセス(「拡散的好奇心」)とズレを低減するプロセス(特殊好奇心)がある。そしてズレが小さすぎると刺激に接近せず、大きすぎると刺激を回避する。

人はズレを感知すると、「おや!?」という感覚を持つ、そしてもっと知りたくなり、調べたくなる気持ちが自ら生まれる。この「おや!?」という感覚が「知覚的好奇心」であり、その後にその対象に対する認識を深める働きが「認識的好奇心」である。そして、この二つが連携して働く。

ポジティブ心理学で重要な概念に「フロー」がある。この「フロー」は、「ひとつの活動に深く没入しているので他のすべてが問題にならなくなる心理状態」「その経験それ自体を楽しめるので、純粋にそれをするということだけのために多くの時間や労力を費やすような「エンゲージ状態」である。

このフロー理論の特徴は、われわれの成長を説明する点にある。
まず、心理状態を知覚された「挑戦レバル」「技能レベル」の2軸で規定する。その時、この「挑戦レベル」と「技能レベル」がハイレベルのバランスを保たれた均衡状態にある時に「フロー」が体験される。
つまり、困難度が高い挑戦レベルが高い機会がある時、それにマッチしたハイレベルの能力を自分が持っていると知覚している時に両者のバランスが保たれにフローを感じる。

そして、われわれの学びや発達はフローを求め続けることにより促進される。
フローを求めて挑戦をつづけ、上達により知覚される挑戦レベルが低くなると、フローを維持しようと、挑戦レベルを上げる必要があるからである。

このようなプロセスの繰り返しによって、われわれの能力が高まっていく。フロー理論では楽しさが自己成長へとつながっていく現象をこのように説明しており、人間の発達モデルと主張している所以である。(抜粋)

関連図書:斎藤兆史(著)『努力論』、中央公論新社(中公文庫)2013年

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