ワンマンショーとしてのモディ政治(その2)
湊 一樹『「モディ化」するインド』より

Reading Journal 2nd

『「モディ化」するインド』湊 一樹 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

第4章 ワンマンショーとしてのモディ政治(その2)

今日のところは“第4章 ワンマンショーとしてのモディ政治”の“その2”である。“その1”では、インド人人民党(BJP)の勢いの衰えにもかかわらず二〇一九年の選挙で圧勝したモディ首相の政治手法を「ワンマンショー」として考察された。今日のところ“その2”では、その「ワンマンショー」がどのようなカラクリであるか、そして一端を垣間見る。では、読み始めよう。

ワンマンショーの舞台裏

では、ワンマンショーのストーリーがあたかも現実であるように国民に信じ込ませるために、モディ政権はどのような情報操作の手法を用いているのだろうか(抜粋)

“その1”で著者は、モディ政権の特徴を、実在のモディ首相が“架空の傑出した指導者・モディ首相”を演じるワンマンショーであると指摘した。ここからは、そのワンマンショーがどのような情報操作で生み出されているのか、素のカラクリを解明する。

SNSデジタルメディアの活用

モディ政権は、自らに都合のよいメッセージを国民に向けて直接発信することに力を入れている。内閣府には特命官がおかれテレビ演説やSNSなどのデジタルメディアなどで“架空のモディ首相”のストーリーに沿ったメッセージを発信している。

また、草の根レベルでは、一〇〇万人を超える「サイバー部隊」がSNSのアプリなどを使って「政府・与党に都合が良いフェイクニュース」「特定の宗教・カーストを標的としたヘイトや陰謀論」をBJPと無関係の組織を装って大量に流している。また、最近ではSNSの運営会社がモディ政権から直接圧力を受け、偽情報やヘイトの拡散を野放しにする一方、政府に不都合な投稿を削除すること行われていることが明らかになっている。

モディ政権は、このようなSNSの活用のほか、モディ首相の公式アプリ「NaMo App」や複数の専用ウェブサイトなどで情報発信をしている。

衛星放送「NaMo TV」

このようなプロパガンダを目的とした情報発信は二〇一九年の総選挙直前から期間中にかけて特に盛んになった。ここで著者は、そのようなプロパガンダ目的の情報発信として衛星チャンネルNaMo TV」をとりあげている。

この「NaMoTV」は、モディ首相の選挙演説の映像やモディ首相をテーマとした映画などが二十四時間放送され、文字どおり「モディだけを宣伝する」ためのチャンネルであった。

その存在があまりにも不透明で謎に包まれていたという意味でも、NaMo TVは普通の衛生チャンネルとは大きく異なっていた。チャンネルの所有者が不明であること、衛星チャンネルの放送に必要な認可を情報放送省から受けていないこと、そして、選挙規定や放送に関わる法律に明らかに違反しているのに放送が停止されなかったことなど、つぎつぎと疑問が持ち上がった。しかし、これらの疑問が解明されることのないまま、プロパガンダの役割を果たしたNaMo TVは、総選挙の終了とともに忽然こつぜんと姿を消した。(抜粋)

映画によるプロパガンダ

二〇一九年の伝記映画『首相ナレンドラ・モディ』も物議をかもした。当初総選挙の第一回目の投票日に合わせて公開が予定された。しかし、選挙結果に影響をあたえるとして選挙管理委員会が公開を一時差し止め、結局上映が総選挙後になった。

また、映画によるプロパガンダはネガティブ・キャンペーンにも利用され、二〇一九年の『偶然の首相』は会議派を中心としたといつ連合に対するネガティブ・キャンペーンの映画だった。

応答や議論の軽視

モディ政権では、このワンマンショーに水を差す要素を徹底的に排除している。その手法の一つが「批判・質疑への応答や議論などの双方向のコミュニケーションの回避である」。

それを、如実に表すのがモディ政権の一期目の五年間でモディ首相が行った記者会見がたった一回という事実である。しかもこの一回もモディ首相が一〇分あまり一方的に話しただけで記者からの質問を受け付けない名ばかりのものだった。この記者からの質問を受け付けないと言う方針は、外遊時でも徹底され、モディ政権の一〇年で唯一の例外が二〇二三年のアメリカ訪問であった。

モディ首相は、メディア各社からのインタビューを受けることはあるが、首相への質問は事前に準備されたもので、首相が一方的に自説を述べるだけの場になっている。

メディア監視と抑圧

モディ政権がワンマンショーに水を差す要素を排除する手法として、メディアの監視と抑圧がある。

BJPは、数百人規模のメディア監視部隊を設けてメディアを監視しそれを「心BJP」と「反BJP」に分類している。そして政府内にも二四時間体制で全国のニュースチャンネルを監視する部隊がおかれている。

そしてモディ政権に批判的な内容を報じるメディアやジャーナリストには、「非友好的」な報道を慎むように政府筋から「助言」が与えられ、そして批判がそれでも続くようであれば、様々な抑圧が加えられる。

インドの主要テレビのNDTVは政府・与党が敵視してメディアであった。NDTVには様々な抑圧が加えられたのち二〇二二年にNDTVの株式の過半数をモディ首相と近いゴーダル・アダニが率いるアダニ・グループが取得した。これにより、インドから権力から独立したメディアが姿を消した

このようにメディアとジャーナリストに対する厳しい監視と抑圧の結果、モディ政権が発足後に政府に批判的な報道をメディアが控える風潮が急速に強まった。

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