聞くことのちから、心配のちから(その3)
東畑開人 『聞く技術 聞いてもらう技術』 より

Reading Journal 2nd

『聞く技術 聞いてもらう技術』 東畑開人 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

第3章 聞くことのちから、心配のちから(その3)

今日のところは、第3章 「聞くことのちから、心配のちから」のその3である。前回・その2では、聞くということには、「知識に当てはめて、相手をパターンに分類していく、わかる」と「相手の内側からどのような世界を生きているのかをわかる」の二つがあり、この二番目の「わかる」が重要であることが述べられた。そしてそこの二番目の「わかる」には、「世間知」が関係し、その「世間知」が今の時代はバラバラになっていることが問題視された。今日のところ”その3“は、この「世間知」の力について解説するために、医療人類学の泰斗たいとクラインマンのヘルス・ケア・システムの話から始まる。では読み始めよう。


クラインマンのヘルス・ケア・システム

ここで著者は、医療人類学の泰斗たいとクラインマンの「ヘルス・ケア・システム」を解説する。
クラインマンは、それぞれの地域にある人々の健康をケアするためのシステムを「専門セクター」、「民俗セクター」、「民間セクター」の3つに分けた。

  1. 専門セクター」:社会で公認された専門家(医師、看護師、心理士など)
  2. 民俗セクター」:非公認の専門家(アロマセラピスト、占い師など)
  3. 民間セクター」:専門家でない人たち(家族、同僚、友人など)
    (①と②の境界線はその社会ごとに異なる)

ここで大切なのは、専門セクターと民俗セクターに比べて民間セクターの方が圧倒的に大きく、そして民間セクターの方が上部に位置している。

実際に、たとえば風邪を引いたときなどはまずは、家族や友人などがケアをし、大体がそこで治ってしまう。民間セクターで手が負えない時に初めて専門セクターや民俗セクターがケアをすることになる。

「世間知」と「専門知]の関係

この民間セクターで働いている知が世間知です。日々のメンタルヘルスの問題の多くは実は世間知によって解決されているんですね。(抜粋)

実際には民間セクターつまりまわりの人たちの「世間知」によって心の問題の多くは解決されている。しかし、その「世間知」では、理解できなくなったとき、その人が孤立してしまったときに初めて専門セクターの「専門知」が役に立つ。

専門家は、その専門知により適切なアドバイスをするなどして、まわりの人たち(民間セクター)のケアを再起動させることが出来る。

専門家は普通の人がお互いにケアすることを助けるために存在しています。(抜粋)

カウンセリングの仕事は通訳である

臨床心理学や精神医学の専門知は、根源的には異常心理学や精神病理学にあると著者は言っている。心が日常の状態から離れ、うまく理解できない時に、心理士などの専門家の専門知が必要となる。
心理士が、病状を家族などに説明すると身近な人のケアが再起動させることが出来る

カウンセリングというと、カウンセラーが特別な聞き方をして、心を癒しているみたいなイメージがあるかもしれませんが、そうではないんです。
ほとんどの場合は、クライエントの心の回復をもたらしているのは、身近な人たちです。本人のわかりにくくなってしまった言葉が、まわりに理解され、心配してもらえるようになり、話をきちんと聞いてもらえるようになると、心はだんだんと安心感を取り戻し、つながりが再生していきます。
カウンセラーの仕事は通訳です。
本人の言葉を翻訳して家族に伝える。あるいは、本人の異常事態になってしまった心がしゃべっている言葉を翻訳して、本人の通常運転しているほうの心に伝える。(抜粋)

カウンセラーの専門知の翻訳により、身近な人の世間知が再起動し、ケアが再開する。本人の心が理解される、つまり世間知の領域になることにより、その苦しさが理解される。そして「理解には愛情を引き起こす力がある」ため、ケアが再開する。

やさしくされることでしか、人は変われないし、回復できません。(抜粋)

「専門知」は、このような意味で役に立つ。

ただし、専門知は世間知のあとにやってきて、そして世間知に戻っていくのが大事です。(抜粋)

「診断名」と「病人役割」

診断名をつけることには賛否両論があるが、著者は診断名によって得られることが多いという考えである。診断名には環境を大きく変える力があり、必要な手助けや配慮が得られ始める。
社会学には「病人役割」という概念があるが、「病気」と認定されると、人は日常の役割から離れて、回復することが最優先事項になる。

本当は、診断名をつけなくても「病人役割」を得られるほうが良いが、現代社会は、人と人が離れてしまっているため、「病人役割」を取るためには診断名があった方がよい。診断名を得ることにより「がんばれ」という言葉が、「お大事に」に変わることができる。

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