『聞く技術 聞いてもらう技術』東畑開人 著、筑摩書房(ちくま新書)、2022年
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
まえがき
今日から『聞く技術 聞いてもらう技術』を読み始めようと思う。この本は相当売れたようで、ちくま新書のカバーの上に宣伝用のカバーがかかっている。カバーには「8万部突破!」「新書大賞2023 5位」とか書いてある。(5位は多少微妙か?)
カウンセリングでは、聴くことが重要な位置をしめ「傾聴法」という専門書も多い。でも、この本は「聴くでなく聞く」の重要性について書かれているようである。
「聞く」ことと「聴く」こと
まず著者は冒頭で、「聞く」と「聴く」の違いをご存知ですか、と問うている。そして、
聞くは、声が耳に入ってくることで「聴く」は声に耳を傾けること。(抜粋)
受動的なのが「聞く」、能動的なのが「聴く」。(抜粋)
さらに、心理士の著者なりに定義として
「聞く」は語られていることを言葉通りに受け止めること、「聴く」は語られていることの裏にある気持ちに触れること。(抜粋)
と言っている。
そして、この「聞く」と「聴く」では、どちらが難しいかという問いに対しては、
どう考えたって、「聴く」よりも「聞く」のほうが難しい。(抜粋)
としている。著者も以前は「聞く」よりも「聴く」の方が難しい、いやレベルが違うと捉えていた。しかし、それは浅はかであった。
ここで「聞く」は、「言っている事を真に受けほしい」であるが、それが本当に難しい。つまり「心の奥底に触れるよりも、懸命に訴えられていることをそのまま受けとるほうがずっと難しい。」のである。
そして、この本の問いは「ならば、どうしたら「聞く」ことができるのか。」である。
「社会季評」と「聞く」論
著者も、もともとは「聞く」よりも「聴く」方が断然難しく、むしろレベルが違うとさえ思っていた。しかし、2020年に朝日新聞で「社会季評」を連載するうちに考えが変わってくる。
このような評論を書こうとして社会を見ると、「聞く」の不全ばかりが目についた。社会に様々な対立が生じていて、「対話が大事だ」と至る所で語れていた。しかし、そのような対話はうまくいっていない。
言葉と言葉は岩石のように、ぶつけあうものになっていました。硬くて、強い言葉が投げつけられ、お互いに傷をつけあう。必要だったのは、お互いを理解して、納得がいく結論を出すことなのに、どうしてもそれが難しくなっていました。(抜粋)
そして著者の「社会季評」は、しだいに「聞く」をテーマにしたものに収斂していった。
なぜ僕らの社会は話を聞けないのだろうか。手を替え品を替えながら、同じことを考え続けることになりました。(抜粋)
そして、2021年、朝日新聞社で「聞く」論についてのオンラインイベントが行われた。このイベントでは著者の予想に反して多くの人が集まり、多くの質問が寄せられた。
日常の中で、話を聞くことができずに困っている人たちと、話を聞いてもらえずに苦しんでいる人たちが、多数の質問を寄せていたのです。(抜粋)
そして、心理士である著者は、この「聞く」という問題は、「僕が日々の臨床で扱っている問題そのもの」であり自分は「聞く」の専門家でもあることに気がつく。
「聞く」ことと「聞いてもらう」こと
なぜ話を聞けなくなり、どうすれば話を聞けるようになるのか。あるいはどういうときに話を聞いてもらえなくなり、どうしたらは話を聞いてもらえるのか。
これがこの本のテーマです。(抜粋)
心理士の世界では、ある程度「聞く技術」の蓄積がある。臨床の場面でのちょっとしたテクニックであるが、案外これが本には書かれていない。
(この本では「聞く技術 小手先編」としてまとめてある。)
しかし、問題はその先で本当に深刻な問題が生じて「聞く」が試される時は小手先では歯が立たない。
「聞く」が不全に陥るとき、実際のところ、僕らは聞かなきゃいけないと思っているし、聞こうとも思っています。
それなのに、心が狭まり、耳が塞がれてしまって、聞くことができなくなる。自分ではどうしようもできなくなってしまう。
これこそ、問題の核心です(抜粋)
ではどうしたらいいか、著者は次のように結論を述べている。
聞いてもらう、からはじめよう。(抜粋)
話が聞けなくなったのは、話を聞いてもらっていないからです、と著者は言っている。
人は心が追いつめられ、脅かされているときには、話を聞くことができない。そうであるならば、話が聞けなくなっているのは事情があること、耳を塞ぎたくなるだけの経緯、そのような自分のストーリーを「聞いてもらう」必要がある。そういうことを聞いてもらえたときに、心に他者のストーリーを置くためのスーペースが生れる。
「聞く」の回復とはそういうことです。
「聞く」は「聞いてもらう」に支えられている。(抜粋)
したがって、「聞く技術」は、「聞いてもらう技術」によって補われる。
本書の構成
この本は、3つの部分からなる。
- 実用的なマニュアル・・・「聞く技術 小手先編」「聞いてもらう技術 小手先編」
- 「社会季評」・・・・そのときどきの世相と絡めて「聞く」をめぐって書かれた短文(朝日新聞に連載)
- 「社会季評」の解説文・・・・「社会季評」の背景にあるアイディアをカウンセラー目線で書いた文章
目次
まえがき [第1回]
この本の問い/対話が難しい時代に/「聞く」を回復する/聞いてもらう技術?/いざ、「聞く」の世界へ
聞く技術 小手先編 [第2回][第3回]
1 時間と場所を決めてもらおう/2 眉毛にしゃべらせよう/3 正直でいよう/4 沈黙に強くなろう/5 返事は遅く/6 7色の相槌/7 奥義オウム返し/8 気持ちと事実をセットに/9 「わからない」を使う/10 傷つけない言葉を考えよう/11 なにも思い浮かばないときは質問しよう/12 また会おう/小手先の向こうへ
第1章 なぜ聞けなくなるのか[第4回][第5回]
届かなかった言葉/社会に欠けているもの/聞くは神秘ではない/「対象としての母親」と「環境としての母親」/ほどよい母親/「対象としての聞く」と「環境としての聞く」/失敗とは何か/痛みを聞く/聞くのが難しい/首相に友達を/聞くはグルグル回る
第2章 孤立から孤独へ[第6回][第7回][第8回]
連鎖する孤独/孤独と孤立のちがい/孤立とはどういう状態か/手厚い守り/個室のちから/メンタルヘルスの本質/他者の声が心に満ちる/安心とはなにか/孤立したひとの矛盾/一瞬で解決しない/心は複数ある/第三者は有利/個人と個室の関係/象牙とビニール/「聞いてもらう技術」へ
聞いてもらう技術 小手先編
日常編[第9回]
1 隣の席に座ろう/2 トイレは一緒に/3 一緒に帰ろう/4 ZOOMで最後まで残ろう/5 たき火を囲もう/6 単純作業を一緒にしよう/7 悪口を言ってみよう/体にしゃべらせる ── 日常編まとめ
緊急事態編[第10回]
8 早めにまわりに言っておこう/9 ワケありげな顔をしよう/10 トイレに頻繁に行こう/11 薬を飲み、健康診断の話をしよう/12 黒いマスクをしてみよう/13 遅刻して、締切を破ろう/未完のテクニック ── 緊急事態編まとめ
第3章 聞くことのちから、心配のちから [第11回][第12回][第13回][第14回]
心に毛を生やそう/素人と専門家のちがい/初めてのカウンセリング/2種類の「わかる」/年をとってわかること/それ、つらいよね/世間知の没落/シェアのつながり/世間のちから/世間知と専門知の関係/心配できるようになること/カウンセラーの仕事は通訳/診断名のちから/バカになる/世間知の正体/理解がエイリアンを人間に変える/時間のちから
第4章 誰が聞くのか [第15回][第16回]
対話を担う第三者/食卓を分断する話題/「話せばわかる」が通用しないとき/幽霊の話/聞いてもらおう/第三者には3種類ある/聞かれることで、人は変わる/当事者であり、第三者でもある/聞く技術と聞いてもらう技術
あとがき ── 聞く技術 聞いてもらう技術 本質編 [第17回]
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