『人を助けるとはどういうことか』 エドガー・H・シャイン 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
④ 支援の種類(後半)
今日のところは「④ 支援の種類」の“後半”である。“前半”では、支援の初期段階では、支援者とクライアントも互いに知らない部分があり、そのため感情的な罠に陥り支援が失敗しやすいことが示され、そのため支援者の課題として互いに必要な情報がうまく流れるように促すことであることが説明された。今日のところ”後半“では、本章のメインの話、つまり支援者が支援の場で選択できる、3つの役割についてである。ここでは、「専門家」「医師」「プロセス・コンサルタント」の役割があることが紹介され、支援を成功させるためには、まず「プロセス・コンサルタント」の役割を経てから「専門家」や「医師」の役割に移行する必要があることが説明される。それでは読み始めよう。
支援者が選択できる3つの役割
支援の場で支援者は基本的に次の3種類の役割を演じることができる。
- 情報やサービスを提供する専門家
- 診断して、処方箋を出す医師
- 公平な関係を築き、どんな支援が必要か明らかにするプロセス・コンサルタント
である。支援者は支援の初期にどの役割を演じるかを選ぶことになり、状況に応じて役割を変化させることができる。そして、この役割により人間関係に異なった結果をもたらすことになる。
この①の専門家と②の医師の役割は、ある程度重なりあい、一般的に支援者というとこの役割になる。
それに対して③のプロセス・コンサルタントは、間接的で漠然としている。ここでは、支援の内容や問題でなく、人と人が関わるプロセスを問題とする。このプロセスに集中するには互いに信頼し合った関係を作ることは不可欠である。それについては、すでに学んでいることであるが、そのスキルをあらゆる支援に際して信頼を築くために活用すべきということは、現時点ではあまり考えていない。
人は誰でもこれら三種類の役割を演じる方法を身につける。しかし、各役割に伴う前提で調べてみると、初めのうちにはプロセス・コンサルタントの役割を身につけることが重要だとわかる。数えきれないほどの無知の領域について考え、そのいくらかを取り除くには不可欠なのである。(抜粋)
専門家の役割
支援の場では、この専門家がもっとも受け入れられる役割である。この専門家の役割の本質は、支援者がクライアントの状況を好転させるための知識やスキルを持っていることに基づく。これには、
- クライアントが問題を正しく診断しているかどうか
- クライアントがこの問題を支援者ときちんと話しているかどうか
- 支援者には情報やサービスを提供する能力があると、クライアントが的確に評価しているかどうか
- 支援者にそうした情報を集めさせることや、支援者が進める改革を実行することを、クライアントがよく考えているかどうか
- 客観的に分析でき、クライアントが利用できる情報に落とし込める外的現実があるかどうか
などの問題がある。そしてその前提が満たされ、未知の領域がなくなったとき、専門家の役割がうまく果せることになる。しかし、そのような前提が満足されないとき、支援の罠にはまってしまう可能性がある。
また、このような支援のとき、クライアントは多くの力を手放し無力になり。そして、支援者は自分が得意なものを何でも売り込もうとしがちである。もう一つ、クライアントが心得ておくことが必要なことに、専門家が二人いれば、異なる結果となる可能性があることである。
医師の役割
次は、「医師の役割」だが、これは専門家の役割を引き延ばして大きくしたようなものである。クライアントは、支援者に情報などのサービスだけでなく、診断や処方薬を出すところまで期待する。支援者は、その役割を果たすか否かを選べるが、その役割を果たす場合は、いっそうの権力を持つことになる。
支援者は強大な権力を持ち、クライアントは自ら診断を下すという責任を放棄する。このような状態は、支援者にとって魅力的である。しかし、このような状況は、さまざまな問題をはらんでいて、支援者の助言や提案が的外れになることも多い。
クライアントは、何かを命じられることを不快に思い、支援者は、助言や提案が無視されるのを目の当たりにする。
この医師の役割の難点は、
- 支援者に正確な情報が与えられるという仮定:クライアントは正確な情報を渡したがらない可能性がある。ある程度の信頼が生れてから初めてクライアントから正確な事実が伝えられる。
- 支援者からの助言や提案をクライアントが受け入れようとしない:コミュニケーション不足による隔絶が起きている場合は、助言や提案は不適切で不快なものに思える。
- 診断プロセスが、予期せぬ結果を生み出す介入にほかならないこと:診断することそれ自体が、クライアントに恐怖心を与え、支援に対する偏見を与える恐れがある。
- .助言や提案が有効でも、クライアントが変化を受け入れないことがある:クライアントの個人的、社会的要素を考慮しない場合はそのようなことが起こりうる。
つまり、医師の役割がどの程度、成功するかは、
- クライアントが正確な情報を明かす気があるか
- クライアントが診断や処方を受け入れ、信じるかどうか
- 診断のプロセスによる結果が正確に理解されて、受け入れられるかどうか
- 勧められた変化をクライアントが実行できるかどうか
- クライアントが依存心を強めた結果が、最終的な解決策の助けにとなるか、妨げになるか
にかかっている。
医師としての役割を演じるタイミングを決める上で最も問題になるのは、この役割がより強力な立場に移行できるほどの信頼がいつ築かれたかを、どのように知るか、あるいは感じるかということだ。(抜粋)
プロセス・コンサルタントの役割
支援者もクライアントもさまざまなことに関して無知である。そのため、効果的な支援関係を築くにはこの無知を取り除く必要がある。
プロセス・コンサルテーションとは、支援者が最初からコミュニケーションのプロセスに焦点を当てることを意味する。(抜粋)
プロセス・コンサルテーションでは、クライアントの要求内容は無視しないものの、支援者は、まず相互の関係がどうなっているのかに注目する。その目的は、互いの立場を台頭に詞、クライアントも支援者も無知をなくせるような環境を作ることである。
このような対応で、クライアントはさまざまな事柄を打ち明けられるようになり、クライアントも対等な立場を獲得して、信頼を構築できる。
つまり、初めの段階で権力のある地位に就くことによる罠を避けるために、控えめな問いかけをする役割を選ぶという行動である。(抜粋)
この役割では、控えめな問いかけを通じて支援者が関心を伝えているため、支援関係が築かれ始める。この役割は、クライアントが主体的であり続けることが中心であり、それを保持できるように励まし続けなければならない。
なぜなら、識別された問題を抱えているのはクライアントだけだし、自らの状況の真の複雑さを知っているのも、自分たちの文化で何がうまくいくかを心得ているのも彼らだけだからである。(抜粋)
そのため、このような支援の仕方の方が、何かを改善しろと命じるよりも、適切な場合が多い。
いろいろな分野の専門家も、このプロセス・コンサルティングの役割の時期を経て初めて専門家としての役割や処方を施す役割を果たすことが可能になる。
プロセス・コンサルティングの役割は、次の前提に基ずく
- クライアントは、実際の問題が何かを診断するうえで、どんな助けが必要かを知らない場合が多い。しかし、問題を抱えて生きていくのはクライアント自身である。
- クライアントは、支援者がどんな支援を与えてくれるのかわかっていない場合が多い。
- クライアントは、物事の改善の意図を持っているが、何を改善するかを見極めるには支援が必要だ。
- 自分の置かれている状態で、何が効果をあげるのかわかるのはクライアントだけである。
- 自分自身で問題を見抜いて対応策を考えないかぎり、クライアントが解決方法を実行可能性は低い
- 支援の最終的な機能は、診断するためのスキルをクライアントに伝え、建設的な介入を行うことである。それによりクライアントは自力でもっと状況を改善していくことができる。
支援の役割のまとめ
支援の状況で、支援者は「専門家」「医師」「プロセス・コンサルタント」から役割を選択できる。そして、支援の初期の段階で「専門家」や「医師」を選択すると、互いの状況の無知や関係の不平等のため「罠」に落ちいり、支援は失敗の終わることが多い。
したがって、支援を成功させるためには、支援をプロセス・コンサルタントの役割から始め、クライアントの立場を確立し、価値ある情報を引き出す必要がある。そのようなプロセスを経て初めて、どんな支援が必要とされ、どのように支援するのが適切かがわかる。
そして、互いの信頼関係が築かれ、正確な情報を得られるようになってから、専門家や医師の役割に移行できる。
どんな支援の状況でも、プロセス・コンサルタントの役割から始められ、
- 状況に内在する無知を取り除くこと
- 初期段階における立場上の格差を縮めること
- 認識された問題にとって、さらにどんな役割をとるのが最適かを見極めること
のように実行される必要がある。
初めのうちは、支援関係におけるプロセス・コンサルタントの役割の本質は控えめな問いかけをすることだ。(抜粋)
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