「鏡に映らない自己を描く — パリ」(その4)
木下長宏『ゴッホ<自画像>紀行』より 

Reading Journal 2nd

『ゴッホ<自画像>紀行』 木下長宏 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

II 自問する絵画 — 自画像の時代
3. 鏡に映らない自己を描く — パリ(その4)

図47 「自画像」1887-88冬

ここから「自画像」の背景の話に移る。15世紀以降になると画家たちの自己意識がつよくなる。観る方も画家の自己証明を要求し、画家もそれをしっかりと立てようとし始める。これが「自画像」が他者の肖像と区別されて、一つのジャンルとなる理由である。ここで、著者は自画像の先駆的代表作としてアルブレヒト・デューラーの「一五〇〇年の自画像」 [図39、油彩、板]を例に出している。この絵では、人物を際立たせるために塗り潰している。

背景を暗く塗り潰し、その背景に主人公を浮かび上がらせることによって、たんに人物の写実的な姿ではなく、内面を写し出す肖像としようとしたのであり、この方法は、その後の自画像の伝統となった。(抜粋)

さらに著者は、自分の顔を描かなくても「自画像」と呼ぶべき作品があるとして、ゴッホの場合は、「靴」(図40[1887年、油彩、カンヴァス])であるとしている。しかし、この絵が自画像と呼べるといっても、この絵には背景にその時の状況が描かれたままである。

自分の顔を描く自画像では、ヴィンセントは、こういう描かれてある対象(もの)の置かれている状況との関連性を消去しようとしている。(抜粋)

図41[1887年秋、油彩、カンヴァス]の「自画像」には、一風変わって右端に日本女性の着物姿のようなシルエットが描かれている。著者はこれをタンギー爺さんの肖像画[図42、43、1887年秋、油彩、カンヴァス]の背景に描かれた浮世絵に影響があるとしている。

しかし、このような背景は一度だけで、夏に試みた作業へ戻った。

そして節の最後に、パリ時代の最後に書いた自画像[図49、1887-88年冬、カンヴァス]について解説している。この自画像は、レンブラントの「イーゼルの前の自画像」[図50、1660年、油彩、カンヴァス]を模していると著者は言っている。

三〇点を超える自画像を描いてきてさまざまな試みの最後を締めくくるパリ時代のっ自画像は、一転、伝統的な完成された「自画像」をあらためて確認してみる仕事だった。伝統的といっても、色遣いや筆致(タッチ)は印象派風だが、背景はびっしりと下地を塗ったベージュの上に灰色を塗り潰している。もういちど「自画像」の原点に戻ってみようとしていることは間違いない。原点に戻ることを考えたとき、おそらく、若いころから尊敬してやまなかったレンブラントの自画像を、ヴィンセントは思い浮かべたのだろう。(抜粋)

このパリ時代は、「アニエールの公園」を含めて29枚の自画像が残り、全作品の四分の一が自画像だった。そのような自画像の実験を繰り返した後、ゴッホはパリから南フランスのアルルへと旅立つ。

図39デュラー「一五〇〇年の自画像」1500https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4d/Albrecht_D%C3%BCrer_-_Selbstbildnis_im_Pelzrock_-_Alte_Pinakothek.jpg
図40「靴」1887春http://www.vggallery.com/painting/p_0333.htm
図41「自画像」1887秋http://www.vggallery.com/painting/p_0319.htm
図42「タンギー親爺」1887秋http://www.vggallery.com/painting/p_0364.htm
図43「タンギー親爺」1887秋http://www.vggallery.com/painting/p_0364.htm
図44「自画像」1887秋http://www.vggallery.com/painting/p_0320.htm
図45「自画像」1887-88冬Searching now.
図46「自画像」1887-88冬http://www.vggallery.com/painting/p_0366.htm
図47「自画像」1887-88冬http://www.vggallery.com/painting/p_0344.htm
図48「自画像」1887-88冬http://www.vggallery.com/painting/p_0365v.htm
図49「自画像」1887-88冬http://www.vggallery.com/painting/p_0522.htm
図50レンブラント「イーゼルの前の自画像」1660Searching now.
図39-50

コメント

タイトルとURLをコピーしました