「朱牟田夏雄」(その1)
斎藤兆史『英語達人列伝 II』より

Reading Journal 2nd

『英語達人列伝 II』 斎藤兆史 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

第VI章 朱牟田夏雄(前半)

英語の達人六人目は、朱牟田夏雄。朱牟田は斎藤と同じ東大の教養学部に長く務めた英語の達人である。前章の勝俣千吉郎が英作文の達人ならば、朱牟田は、さしずめ翻訳(英文解釈)の達人という位置づけか?


斎藤の達人さがしも、徐々に年代が上がってきて、ついには自分の身近なところまできた。そこで、斎藤が選んだ達人は、朱牟田夏雄である。

かつて東大の教養学部には、並みの英文学者をはるかにしのぐ学識と業績を持ちつつ、自らを「語学教師・訳読教師」と呼び、平然とその役回りに徹した先生がいた。その名を朱牟田夏雄という。一般的には、翻訳と英文解釈の名人として知られる先生である。(抜粋)

朱牟田は、一九〇六(明治三九)年、中学教師の両親のもとに生まれた。小学校では英語を習わなかったものの、「中学校に入って英語で苦労するといけないから」という父の勧めで、五年生の終わりごろから、立教大学生の下宿に『ナショナル・リーダー』(Barnes’s New National Readers、全5巻)を習いに行ったという。それが朱牟田と英語との出会いであった。
その後、優秀な先生に恵まれたこともあり、英語力を一段と高め、一九二七(昭和二)年に東京帝国大学英吉利文学科に入学し、そのまま大学院に進んだ。

ここで斎藤は、朱牟田が大学院時代からどのくらいの英書を読んだかについての逸話を紹介する。彼は、一年三百六十五日、毎日毎日少なくとも一時間や二時間は辞書を引きながら英書を読む生活を三十年以上続けていると、書いている(「辞書をひかない生活」『英語教育』)。執筆当時五十五歳だから大学院時代より五〇代半ばまで来る日も来る日も辞書を引きながら英書を読んでいることになる。

ここで、斎藤は辞書を引くことの重要性をこう語っている。

昨今の英語教育について言いたいことはいろいろあるが、その一つとして、辞書を引かずに内容を類推する読み方だけを推奨するのはやめていただきたい。そのような読み方が必要になる場合もあるが、辞書をこまめに引きながら英文を精読する活動は必須である。辞書を引かない語学学習などはあり得ないし、辞書を引く回数に比例して読解力が伸びると言っても過言ではない(抜粋)

朱牟田は、P.O.D.(Pocket Oxford Dictionary)を何度も買い替えなければならないほど引いたという。

朱牟田は、読解だけでなく、会話力もずば抜けて良かった。斎藤は、ことを示す幾つかの逸話を紹介している。また、その発音は、

「当時巷で流行していたアメリカ日常会話とは違う、辞書の発音記号に忠実な日本人が発音多英語」(抜粋)

であったという。

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