『戦艦大和ノ最期』吉田満 著
[Reading Journal 1st:再掲載]
(初出:2005-08-16)
間断ナキ猛襲、戦勢急落、護衛艦苦闘、小休止、断末魔、艦隊解散
戦闘は激化し、圧倒的多数のアメリカ軍に対し大和の機能は、確実に麻痺してくる。
船内に水が入り込み船勢を保つため、まだ人が退避しきれない場所にも水を流し込む。通信網は寸断され、連絡はただ伝令を走らすのみとなる。
艦橋も敵機の攻撃にさらされる、大半の艦橋員が敵機の襲撃とともに床に伏せるのだが、
ソノ中ニ、依然トシテ身ジロモセヌ指令長官
スクット立ツ航海長
ソノ前ニ、窓ニ上半身身ヲ乗リ出シテ雷セキヲ見張ル兵学校出身、倨慠ナル山森中尉ナリ日頃ノ高言ニ愧ジヌ天晴ノ活躍トイウベキカ(抜粋)
送受信室を失い、舵を破壊され戦艦大和は、連絡も身動きも取れなくなった。また、護衛艦も、あるいは沈没しあるいは傾き、戦闘不能になっていく。
そして、魚雷の集中攻撃により、ついに大和も沈没が確実になった。
「作戦中止」の時をむかえる。
ヤガテ長官、ツト身ヲ起シテ、前方斜メニ揺レ返ル水面ヲ見入ル
ノチ想オ測レバ、コノ間長官ハ、直截果断ナル「作戦中止」ノ決断ヲ了シタルナリ
参謀長、左手ヲ羅針儀ニ支エツツニジリ寄ッテ、長官ニ挙手ノ礼 永キ沈黙
長官礼ヲ返シ、眸、互イノ眸ヲ射ル
・・・・・中略・・・・・・・
長官、挙手ノ礼ノママ、静カニ左右ヲ顧ミ、生キ残リノ士官一人一人ノ眸ヲ捉ウ
イザリ寄ル幕僚(参謀)数名ト、慇懃ノ握手
一瞬微笑マテタル如ク思ワレタルモ、ワレカネテヨリカカル光景ノウチニ勇者ノ微笑ヲ夢想シタリシ故ノ、錯覚ニ過ギザレヤモ知レズ
長身ノ身ヲ翻シテ、艦橋直下ノ長官私室ヘ「ラッタル」ヲ歩ミ去ル
開戦以来、一切ニ無縁、微動ダニセザリシ長官ノ、我ラガ眼前ニ演ジタル行動ハ、スナワチ以上ニ尽ク
ソノ後沈没マデ、長官私室ノ扉開カレズ マタ絶エ間ナキ破裂音ノ故カ、自決ノ銃声ヲ聞カズ
携帯拳銃ヲ撫シツツ、身ヲモッテ艦ノ終焉ヲ味ワワレタルカ
第二艦隊指令長官伊藤整一中将、御最期ナリ(抜粋)
伊藤長官の遺族は、男子をすべて失われたとの事である。
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