医療・健康活動への応用(後半)
大竹 文雄『行動経済学の使い方』より

Reading Journal 2nd

『行動経済学の使い方』大竹 文雄 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

第7章 医療・健康活動への応用(後半)

今日のところは、第7章「医療・健康活動への応用」の”後半“である。第7章は、行動経済学の医療・健康活動への応用であるが、”前半“では、がん検診の受診向上、ワクチン接種率の向上のナッジ、終末医療の選択などにかかわるナッジが取り扱われた。そして、今日のところ”後半“では、ダイエットジェネリック薬品への切り替え、そして臓器提供のナッジが取り扱われる。

ダイエットのナッジ

ここでは、ダイエットに効果があるナッジをさまざまな側面から紹介している。

先延ばしを防ぐナッジ

まずダイエットを難しくしている原因の一つは、今の健康行動がすぐに結果として表れないことである。そのため将来の利得のために、今の楽しみを我慢して運動や食事療法をするのはあまり魅力的でない。また健康行動をしないといけないと思う人でも、現在バイアスが強ければ先延ばししてしまう。また、ダイエットを難しくしているもう一つの原因は、成果に不確実性があるということである。

その場合、将来の目標だけでなく今日行ったことに対して直接報酬が得られるようにすることがナッジとなる。将来の目標だけでなく毎日の目標も定めて、それを達成することを報酬とすると先延ばし行動の問題が発生しない。

また、毎日の行動を継続させるナッジとしては、その行動によって報酬をもらうとかアプリのポイントをもらうなどがある。また反対にインセンティブを考慮して、始めに一定の金額やポイントをもらい、行動をしないと一定の金額やポイントを差し引かれるという方法もある。

コミットメントの利用

コミットメントを利用する方法として、目標を決めてそれを達成できない場合は罰則(お金の没収など)をする、目標を常に意識できるようにする、などがある。

社会規範やピア効果の利用

スマホアプリでダイエットをしているグループに入り、競い合う

贈与交換の利用

ジムのトレーナーからの励ましや個別メール、アドバイスなど。

デフォルトの利用

食事や運動をダイエット用にルール化して、それをデフォルトとする。

実際、減量についてのナッジの研究はいくつか行われており、少額であっても金銭的報酬の効果はあること、損失フレームの方が効果は大きいこと、コミットメント型も効果があることが示されている。・・・中略・・・・ただし、このようなナッジをやめた後でも、習慣として健康行動が維持されるかどうかについてはよくわかっていない。またこのようなナッジに慣れが生じてしまって、長期的に効果が減少する可能性もある。(抜粋)

ジェネリック薬品への切り替えのナッジ

次にジェネリック薬品への切り替えの事例である。ここではデフォルトの手法を使っている。

日本では、医療費の削減のためジェネリック薬品の使用を推進している。ここでは、保険薬局でジェネリック薬品の調剤する際の点数加点という金銭的インセンティブも使われているが、重要なのはデフォルトの活用である。

2008年までは、ジェネリック薬品に変更可能という場合、医師が処方箋に署名する方式であったが、2008年の改正で「後発品への代替」を認めない場合に、医師が「後発品への変更不可」欄に署名する方式になった。つまり、後発品をデフォルトとした。この変更により、ジェネリック薬品の使用の割合は飛躍的に伸びた。

また、このジェネリック薬品の使用は、地域差が大きかった。そのため政府はジェネリック薬品の使用率が低い都道府県を公表して改善を促した。これは社会規範を使ったナッジである。

そして、ジェネリック薬品の使用率が最下位だった徳島県は、ジェネリック薬品を選べることを説明するフィールレットを患者に配った。これは、情報提供のナッジである。これにより、ジェネリック薬品の使用率は1年で10%も上がり、さらにこの政策が終了した後も使用率は低下しなかった。

臓器の提供のナッジ

第7章の最後は、臓器提供のナッジである。臓器提供の意思表示に対しては、デフォルトの設定に大きく影響される。しかしデフォルトをオプト・アウトに変更するには倫理的な問題を伴う。それでは、ほかにどのような方法があるだろうか。

イギリスで、ウェブで運転免許の書き換えの際に、臓器提供のドナー登録を勧誘するナッジの研究がある。研究は「臓器提供のドナー登録をお願いします。」という文言の後で、社会規範、視覚的効果、損失メッセージ、利得メッセージ、互恵性などを考慮したいくつかのメッセージを付け加えて行われた。

その結果、互恵性に訴えるメッセージを加えたものが一番ドナーの登録は多かった。その次が損失メッセージで他も効果があった。

これと同種の実験は、日本において著者らによって行われた。その結果は、やはり互恵性に訴えるメッセージの成績が良かったが、損失メッセージの効果には地域性があった。また、メッセージが複雑であるとナッジとしての有効性が小さくなるという結果であった。

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