「カリスマ」の登場(その1)
湊 一樹『「モディ化」するインド』より

Reading Journal 2nd

『「モディ化」するインド』湊 一樹 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

第2章 「カリスマ」の登場(その1)

ここから“第2章 「カリスマ」の登場”である。第1章(”その1”、”その2”、”その3”)では、モディ首相によるインドの権威主義化について概観した。第2章では、ナレンドラ・モディの生い立ちからグジャラート州の知事になり、権力の階段を昇り詰めるまでを追っている。第2章は、三つに分け“その1”では、モディの生い立ちから、結婚の拒否と放浪、そしてモディの語られ方についてまとめ、“その2”では、放浪の旅から帰還した後、モディがグジャラート州の知事になるまでをまとめる。さらに“その3”では、州首相であったモディが、どのようにグジャラート暴動の責任を回避し、権力を固めたかについてまとめる。では、読み始めよう

ナレンドラ・モディの「生い立ち」

チャイ売りとシャーカ

ナレンドラ・ダモダルス・モディ、は、一九五〇年九月一七日にグジャラート州のメヘサーナー県のヴァナガルに生まれた。モディの父親はヴァナガル駅でチャイを売る仕事を営み、モディも子どものころにこの店を手伝っていた。

子どものころのモディは学業面では、凡庸であったが討論と演劇には自ら積極的に参加をしていた。そしてなによりも熱心に取り組んだのは、ヒンドゥー至上主義団体の民族奉仕団(RSS)が各地で開いていた集会・シャーカであった。モディは6歳のころからシャーカに通い始める。

日々のシャーカでは、整列とRSSの旗への敬礼、ヨーガと運動、集団ゲーム、詩節の唱和と賛歌の斉唱、訓話と問答などの活動が行われていた。シャーカに参加できるのは男性に限られ、決まった制服を身に着ける。また、シャーカでは指導役の指示に従いながら、規律を守って行動することが「奉仕者」に求められた。シャーカの活動を通して参加者はヒンドゥー至上主義的な考え方を学んだ

結婚と出奔

モディが生まれた地域では、当時、三~四歳で婚約をすませ、一三歳までに結婚の儀式をとり行い、そして一八歳~二〇歳で夫婦として同居することが習わしであった。そしてモディもこのような慣習に従って各々の段階を経たのち、一九六八年に結婚した。

ところがこの同居を始める最後の段階を目前にして、モディは家族にも行き先を告げずに家を飛び出し、消息を絶った。この後の数年間の足取りは、本人もあまり語ろうとせずはっきりしない。モディは、ある作家のインタビューで、家族から離れヒマラヤ方面に放浪の旅に出ていたと語っている。

本人の限られた発言と周囲の関係者による証言をあわせると、結婚によってその後の人生が家族と生まれた故郷に縛りつけられるのは、モディには耐えがたいことであり、それを拒否するために出奔しゅっぽんしたと解釈するのが自然だろう。つまり、周りの人たちが送る普通の生活とは違う何かを求めて「自分探し」をする、青年時代の姿が浮かび上がってくる。(抜粋)

そして、一九七一年のある日、放浪を終え、突然実家に戻ってくる。しかし、次の日には、家族を残してまた郷里を離れてしまう。

モディの語られ方と伝記

ここで著者は、モディの生い立ち以上に、その”語られかた“が興味深いとしている。

モディは、自分に都合の良い部分は徹底的にアピールし、知られたくない部分は言及しないところか、あらゆる手段を使って隠そうとする

その最も強調する部分は、「インドの民主主義」に自分自身を重ね合わせることが出来る生い立ち、つまり貧しい家の出身であること、縁故ではなく自らの才覚で地位を築いた点である。そして代表的なものが「チャイ売り」のエピソードである。

反対に、「結婚にまつわるエピソード」については、徹底的に隠ぺいする。モディの結婚にまつわるエピソードを取材した記者のなかには、モディ本人から脅迫まがいの行為や嫌がらせを受けたと証言する者もいる。

この結婚の事実を隠していたことについて著者は、

BJPの首相候補を目指していたモディが、RSSの専従活動家は未婚者でなければならないという規則を破っていたことを攻撃材料にされるのを警戒したのかもしれない。(抜粋)

と推測している。実際にモディが結婚の事実を公表したのは、BJPの首相候補に決定した後だった。(ここで、BJP=インド人民党、RSS=ヒンドゥー至上主義団体の民族奉仕団、である。)

このような傾向は、モディの伝記にも表れていて、公式伝記ともいえる『時の人――ナレンドラ・モディ』では、出奔と放浪については感動的に書かれているが、妻を捨てたことについては一切触れられていない。また、その他の伝記でも、モディに好意的でない著者についてはインタビューが突然キャンセルされるなどの、妨害にあっている。

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