『人生の一冊の絵本』 柳田邦男 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
人はなぜ学び、なぜ働き、なぜ祈るのか
『いのる』
柳田邦男は、「私の一冊の写真絵本」を挙げてほしいと問われたら、写真家・長倉洋海の『いのる』を挙げると言っている。
長倉さんが二〇一六年に出した『いのる』は、どの頁を開いても、胸にずんずんと響いてくる。祈る人間の敬虔な姿の写真と思索する長倉さんの言葉とが交響していて、読み進むほどにこちらが精神性の高みへと引き上げられていく思いが胸中に広がってくる。(抜粋)
世界各地での祈りの情景が紹介されているが、そのなかほどで長倉さんがたどり着いた死生観が綴れている。
〈ぼくが小学生のとき、おばあちゃんが死んだ。焼いた煙が高い空にのぼっていくのを見たとき、すべてが無になってしまったような気がして、悲しかった。
でも、さまざまな死に出会う中で、やっと気づいた。ただ死を恐れるのではなく、生きている、この時間、この瞬間を、もっともっとしんけんに生きることが大切なんだ、と〉(抜粋)
そして、この写真絵本のおわりちかくでは、
〈いのることで、昔の人たち、宇宙、未来とも つながることができる。そうすることで、わたしたちは「永遠」というものに 近づくことができるのかもしれない〉(抜粋)
と語っている。
長倉は、『いのる』に続いて、二〇一七年には『はたらく』、二〇一八年に『まなぶ』を発刊している。
関連図書:
長倉洋海(写真・文)『いのる』、アリス館、2016年
長倉洋海(写真・文)『はたらく』、アリス館、2017年
長倉洋海(写真・文)『まなぶ』、アリス館、2018年
長倉洋海(著)『だけど、くじけない』、NHK出版、2012年
人は何を求めて旅に出るの
「人生は長い旅だ」とよく言われるように、旅はしばしば文学作品のモチーフとなっている。ここでは、旅をモチーフにしている絵本を三冊紹介している。
『オレゴンの朝』
一冊目は、『オレゴンの朝』である。柳田は、この絵本を一読し、物語と絵の融合に見せられたと言っている。物語はサーカスのピエロ役のデュークとオレゴンというクマが、サーカスを抜け出し大きな森へ向かう旅の物語である。電車に乗りバスに乗り、そしてお金が無くなった後はヒッチハイクをして西へ西へと進む二人。途中、<ヴァン・ゴッホの風景の中を>クマに肩車をしてもらってあるく。そして最後にオレゴンが夢みていたエゾマツの林にたどり着く。そしてオレゴンは森の中に消えていった。
<今度はぼくも旅に出よう、何も考えずに、心を軽くして>(抜粋)
そして、デュークも自分自身の旅に出ていく。
『クマと少年』
2冊目は『クマと少年』である。この本はアイヌのコタン(村)に生まれた少年の心の成長物語である。アイヌの人々は春になると巣穴から冬ごもりしている赤ん坊のクマを生け捕りにする。クマは神の仮の姿で人々に毛皮と肉をプレゼントするために神の国から降りてくると考えられていた。そして、子グマが大きくなった時、クマに毛皮と肉を残して死んでもらい神の国に返す。その儀式がイオマンテ(熊送り)である。
少年は、生け捕りにされた子グマキムルンと一緒の母の乳をのみ、一緒に遊んで、共に育つ。そして、いよいよキムルンがイオマンテの対象になった。しかしその前夜にキムルンは、檻から抜け出し山に逃げてしまった。
やがて少年は成長し、エカン(長老)から弓と矢を渡され、キムルンを神の国にお返しする約束を実行するように言われた。少年はキムルンを探す旅に出る。そして、ついにキムルンと出会う。キムルンは語りかけた。
<あの日 ぼくは にげたんじゃない。 だいすきなにいさんの 矢で 神の国へ おくりかえしてほしかった。 でも、にいさんは まだまだ ちいさかった。 この日がくるのを ずっと まっていました>
<いまの にいさんには できます。 あの こころやさしい あかんぼうが こんなにりっぱで たくましい少年になりましたと 神の国にかえって つたえたいのです>(抜粋)
そしてクマは去っていくが、ついに少年は弓矢を放つ。
『ジャーニー 国境をこえて』
三冊目は、『ジャーニー 国境をこえて』である。この本は、戦争が起こったある国から母子三人が町から脱出して、命がけで他の国に向かう話である。あまりに深刻な逃避行のため、言葉は少なく、イラスト風の明るい絵で難民の逃避行を表現している。
<いつかきっと、この鳥たちのように、安心してくらせるところへ、たどりつけますように、そこが、新しいふるさとになってくれますように>(抜粋)
最後に柳田は次のように言って章を結んでいる。
以上の三冊の絵本の通して見えてくるのは、一口に「旅」と言っても、その動機やクラス環境、土着の精神文化、時代の状況によって、人々にもたらす意味が違ってくるが、旅とはいのちと向き合うことだという点で共通している。(抜粋)
関連図書:
ラスカル(文)、ルイ・ジョス(絵)、山田兼士(訳)『オレゴンの朝』、らんか社、2018年
あべ弘士(作)『クマと少年』、ブロンズ新社、2018年
フランチェスカ・サンナ(作)、青山真知子(訳)『ジャーニー 国境をこえて』、きじとら出版、2018年
コメント