『人生の一冊の絵本』 柳田邦男 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
自己否定が自己肯定に変わる瞬間
ここでは、同じテーマの絵本2冊が紹介されている。『はこちゃん』と『カーくんと森のなかまたち』である。
『はこちゃん』
三人の子どもたちが、自分の名前についてはなしをすることから物語は始まる。それぞれ自分の名前の由来などを語るが、はこちゃんだけは漢字で「葉子」と書けたものの、どういう意味だか説明できない。そして、自分の名前がつまらないものに思えてくる。おまけに男の子から名前について冷やかされてしまった。
そして、お母さんに自分の名前の意味を聞くと、お母さんは丁寧に説明してくれた。そして、自分の名前が好きになったはこちゃんは、昨日、意地悪を言った男の子に名前の意味を自信をもって説明する。この話を通して柳田は次のように言っている。
子どもたちの間では、名前の印象とか、言葉の訛りとか、洋服のちょっとした模様とか、些細なことがきっかけで、意地悪をしたり、いじめたりするトラブルが生じやすい。落ちこんだ子は、それがきっかけで、孤独になったり、引きこもったりしがちだ。そんなときに、親や教師や別の友達が、沈んだ表情の子の通常でない様子を察知して、その子が悲しみやつらさ、くやしさなどの感情を吐き出せるように、全身で包んであげるような対応の仕方が大事になってくる。
はこちゃんの場合、自身を取り戻せるように、母親が名前にこめた親の思いをしっかりと話すとともに、全身で抱きしめてあげる場面がある。その場面こそ、この絵本の大事なメッセージを表している。(抜粋)
『カーくんと森のなかまたち』
もう一冊は『カーくんと森のなかまたち』である。これもテーマは『はこちゃん』 と共通している。
主人公のカーくんは、全身は茶色だがそこに白い点々が広がり夜空の星のように見えるホシガラスである。しかし、カーくんは、自分の事をつまらないと思うようになってしまう。そして他の鳥をうらやましく思う。そして
<友だちを見ていたら、ぼくは、ぼくなのが、つまらなくなってきちゃったの>(抜粋)
とつぶやく。それを聞いたシマフクロウのホー先生が、話を聞いてくれた。ホー先生にすべてを話した。カーくんは寝てしまう。そして目を覚ますと、ホー先生と仲間たちがいて、みんながカーくんのからだが星のような模様をほめてくれた。そしてカーくんは、
<みんなが、いてよかった。ぼくも、いてよかった。ぼくも、ぼくでよかった・・・・>(抜粋)
と思う。この話の最後に柳田は次のように言っている。
今は、このような自信を取り戻すのがなかなか難しい時代になっている。人は互いに認め合い支え合ってこそ、生きがいや生きる楽しさを見出せるものだ。どんな人でもその人が生きている意味があるのだという、この絵本のやさしいメッセージは、子どもたちが自分を見直すきっかけになるに違いない。
関連図書:
かんのゆうこ(文)、江頭路子(絵)『はこちゃん』、講談社、2013年
夢ら丘実果(絵)、吉沢誠(文)『カーくんと森のなかまたち』、ワイズ・アウル、2007年
障害のある子どもの限りない想像力
ここでは、差別の問題に取り組んでいる絵本を2冊紹介している。柳田は
近現代になると、欧米などで、障害者や病気の患者に対する偏見と差別をなくそうとする人々が現れ、教育界も少しずつ変わってきた。(抜粋)
とし、そして絵本の世界でも障害のある子どもや重い病気の子どもたちに対する理解を深めようとしている絵本も現れ始めてきた言っている。
『がらくた学級の奇跡』
最初に紹介されているのは『がらくた学級の奇跡』という絵本である。この絵本は、著者のボッコラの実体験をもとに作られたものである。
主人公のトリシャ(パトラシアの愛称)は、識字障害があるため特別学級に入れられていた。特別学級は一般学級の児童から「がらくた学級」と呼ばれてバカにされていた。そこに現れたピーターソン先生によって教室が変わっていく。「がらくた学級」と呼ばれていることを知った先生は、みんなを本当のがらくた置き場に連れていく、そしてそのがらくたを使って、みんなで作品を創り出す。
この物語は、発達障害などがある子でも、すばらしい個性的な才能を秘めているのだということ、そしてその才能を引き出す情熱的な先生の存在が、その子の人生に光をもたらすほど重要なのだということを、感銘深く気づかせてくれる。(抜粋)
と書いている。
『みんなから みえない ブライアン』
2冊目は『みんなから みえない ブライアン』である。小学校低学年には、ひどくいじめられているわけではないが、仲間にいれてもらえず。寡黙に孤立している子どもがいる。そのような子どもを作者は「みえない子」と表現している。
そのような「みえない子」であるブライアンは、ひとりで絵を描いていることが多い。そのブライアンの状況を変えたのが転校生のジャスティンである。みんなからからかわれていたジャスティンにブライアンが優しい絵手紙を書いたのがきっかけであった。この絵本では、その絵によってブライアンの心情があらわされている。
関連図書:
パトリシア・ポラッコ(作)、入江真佐子(訳)『がらくた学級の奇跡』、小峰書店、2016年
トルーディ・ラドウィック(作)、パトリス・バートン(絵)、さくまゆみこ(訳)『みんなから みえない ブライアン』、くもん出版2015年
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