書き直す / 削る
辰濃和男 『文章のみがき方』 より

Reading Journal 2nd

『文章のみがき方』 辰濃和男 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

III 推敲する 1 書き直す

「いったん下書きしたものを、あれこれ手を入れて磨き上げていくことは、非常に大事なことだ。私自身は、頭の中に文章が出来上がるまで筆をとらないほうなので、頭の中での書き直しが多いのだが、それでもノートにあら原稿を書いて読み直し書き直しをすることも少なくない」(板坂 元)(抜粋)

「III 推敲する」の最初の話は、“書き直す”である。ここで著者は、作家の宮本輝がまだ無名時代のころ、同人雑誌の編集者の求めに応じ「いい作品だ」と言われるまで七回も書き直した話。同じく作家の高村薫は、『神の火』を文庫にする時、五ヵ月を費やして書き直した話などを紹介している。

新聞社の論説委員であった著者の身近では、書くのが遅くて書き始める前に時間がかかる人、一気に書き始めてたちまち書き終える人など様々な人がいたが、だれもたその原稿を推敲することには、変わらなかったと言っている。

そして著者自身が推敲する場面で注意していることを次のように列挙している。

  1. 一読して、主題がはっきりと浮かび上がっているかどうか。
  2. 文章がちゃんと、こころよく流れているかどうか。ゆっくりと何度も読み返してみる。
  3. ひきこまれて読む、というおもしろさがあるかどうか。
  4. 自分が読み上げている文章を、読み手がすんなりと理解できると思うか。
  5. とくに書き出しの文章がもたもたしていないか。すっきりしていて、人をひきつける力があるかどうか。
  6. 過剰な表現がないか。文章に湿り気が多すぎないだろうか。もっと乾かしたほうがいいのではないか。
  7. 一定の枚数に内容を盛りこみすぎて、文章が窮屈になっていないだろうか。その逆に、字数のわりに内容がうすすぎるということはないか。
  8. 結びの文章のおさまりがいいかどうか。
  9. 一つの文が長すぎてよみにくくなっているところはないか。長すぎる文は二つに分ける工夫をしよう。
  10. 改行をふやして、段落を多くしているかどうか。
  11. 漢字とひらがなの割合はどうか。漢字がおおすぎて、ページ全体が黒っぽくなっているということはないか。
  12. 言葉の順序がおかしくないか。
  13. 文末が単調になっていることはないか。
  14. まだまだ削れるところがあるのではないか。
  15. 同じ言葉が何回も出てきて、うっとうしいことはないか。
  16. 紋切型の表現はないか。
  17. 難しい専門用語をそのまま使ってないか。
  18. 不用意に外来語を使っていることはないか。
  19. 書かれていることに間違いはないか。
  20. 字の間違い、数字の間違いはないか。
  21. 人名、地名はもう一度、確認する。
  22. 引用文の内容に間違いはないかどうか。
  23. 孫引きは危ない。原典にあたること。

関連図書:
板坂 元(著)『何を書くか、どう書くか』、カッパ・ブックス、1980年
宮本 輝(著)『命の器』、講談社、1983年
高村 薫(著)『半眼訥訥[とつとつ]』、文藝春秋社2000年

III 推敲する 2 削る

「文章の中の、ここの箇所は切り捨てたらよいものか、それとも、このままのはうがよいものか、途方にくれた場合には、必ずその箇所を切り捨てなければいけない。いはんや、その箇所に何かを書き加えるなど、もつてのほかといふべきであらう」(太宰治)(抜粋)

書くことは、つねに削るという動詞を伴っている、と著者は言う。そして多くの場合削れば削るほど文章が良くなっていると言っている。削ることは、他の部分を際立たせることである。削れば削るほど削ってはならないと思うところいっそう際立って行く。

ここで著者は瀬戸内寂静の逸話を紹介している。

作家、瀬戸内寂静は、文章を削ることを仏像彫刻になぞられています。「わたしは仏像を彫るのをちょっと習ったのですが、松久朋琳先生が教えてくれるとき、『瀬戸内さん、仏像を彫るということは、木のなかにいらっしゃる仏様におでまし願うんだ。木をずっと削いでいって、・・・・・仏様のお肌にノミが当たって血が出る、そこまで削がなければほんとうの仏様ではない』。そういうふうに教わりました。それは文章でも同じことだとおもいましたね」(抜粋)

自分の書いた文章を削るときは、「もったいない」と気持ちが働くが、でも削った方がよい。削りこんだ文章は、読む画家にも快感を生む。人さまに読んでもらうためにも文章は削った方がよい。


関連図書:
太宰治(著)「もの思う葦(その一)」『太宰治全集(一〇)』、筑摩書房、1967年
水上勉・瀬戸内寂静(著)『文章修行』、岩波書店、1997年
山口瞳(著)「天の詩、地の利」週刊朝日(編)『私の文章修行』、朝日新聞社、1979年
大岡昇平(著)「翻訳しながら・・・・」週刊朝日(編)『私の文章修行』、朝日新聞社、1979年
井伏鱒二(著)「山椒魚」『井伏鱒二自選全集(一)』、新潮社、1985年

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