『文章のみがき方』 辰濃和男 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
I 基本的なことを、いくつか 7 小さな発見を重ねる
「どんな小さなことでもいい。毎日何かしら発見をし、『へぇ、なるほどなあ』と感心して面白がって働くと、努力も楽しみのほうに組み込むことが出来るように思う」(向田邦子)(抜粋)
この引用は、文章についてではなく向田邦子が「働く女性」へ向けた言葉である。小さいことでもなんでもいいから「へぇ、なるほど」と感心し、面白がって働いた方が、心に余裕もできる。真剣半分、面白半分で働こうという、向田のアドバイスである。
著者は、この「日々、小さな発見をする」ということは、文章を書くうえでも大切な心構えになると言っている。
この向田の言葉ですが、働く⇒勉強する、に変えると受験生へのいいアドバイスになるだろうと思った。(つくジー)
向田は、「神は細部に宿りたもう」というエッセイに引用していますが、細密なことに目を止め、それから描くことで、人生そのもの、世間そのものを描いてしまうという手法にすぐれた人でした。(抜粋)
この後、著者は具体的な例をあげて向田の文章を解説している。
著者が解説している話の中で、特に「ゆでたまご」という小品は、とても良い話であると思った。(つくジー)
著者は、このような作品の底にあるのは、本質を視る眼の深さだとしている。そして、それを、動体視力になぞって「洞察視力」と名づける。
文章を書くうえで、この洞察視力は実に大事だと思いますし、この視力は、きたえればきたえるほど強まってゆくものだといえるでしょう。(抜粋)
関連図書:向田邦子(著)『男どき女時』、新潮社(新潮文庫)、1985年
II さあ、書こう 1 辞書を手もとにおく
「『作文教室』に辞書を持たずにいらっしゃるというのは、大胆不敵というか、関ヶ原の合戦に槍や刀を全部置いて丸腰で駆けつけるようなものです」(井上ひさし)(抜粋)
この引用は井上ひさしの作文教室での発言である。文章を書きながら、迷うことがたくさんある。ここでは、「うとうと」と「うつらうつら」に違いを『角川必修国語辞典』を参照し、辞書の必要性を説明していうる。そして、著者は、このような言葉の使い分けを確認するには、新聞社が出版している「用語の手引き」も便利として勧めている。
さらに「言葉を探すために辞書」として『逆引き広辞苑』を、その具体的な使い方とともに紹介している。同様な目的のために「類語辞典」なども役立つとしている。
そしてここで、辞書の具体的な使い方ではないが、浅田次郎と「辞書」の逸話が書いてある。
浅田は、自身の活躍の源泉は「母があの日、『えらい、えらい』と泣きながら私に買い与えてくれた、三冊の辞書である」と書いている。
東京オリンピックの前年に、浅田は、私立中学を受験すると言って、働く母親を困らせた。そのころすでに生家は没落していた。しかし、母は次郎のわがままを聞き、次郎は中学に合格する。母は、学用品を山のように買い与え、辞書も小さなものには見向きもせずに広辞苑と研究社の英和辞典、大修館の中漢和を買い与えた。
その母は七十三歳で亡くなりました。母の、遺された書棚には浅田次郎のすべての著作が並び、小さな国語辞典と、ルーペが置かれてあったそうです。
浅田は書いています、「あの日から、三冊の辞書を足場にしてひとり歩きを始めた私のあとを、母は小さな辞書とルーペを持って、そっとついてきてくれていた。そんなことは、少しもしらなかった」と。(抜粋)
最後に著者はこの章とまとめを次のように書いている。
- いつもかたわらに辞書を置き、こまめにひく習慣をつくる。
- 辞書で言葉調べのたのしさを味わう
- 新聞社がだしている「用語の手引」や、そのほかの「類語辞典」「逆引き辞典」などたくさんの種類の辞書をおおいに活用する。
関連図書:
井上ひさしほか(著)『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』、新潮社(新潮文庫)、2002年
浅田次郎(著)『ひとは情熱がなければ生きていけない』、講談社(講談社文庫)、2007年
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