毎日、書く / 書き抜く
辰濃和男 『文章のみがき方』 より

Reading Journal 2nd

『文章のみがき方』 辰濃和男 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

I 基本的なことを、いくつか 1 毎日、書く

「旅行に行って一〇日くらい書かないことはありますけど、そうすると一〇日分へたになったと思います。ピアノと一緒なんでしょうね。書くというベーシックな練習は毎日しないといけません」(よしもとばなな)(抜粋)

さて、『文章のみがき方』の最初の話は、「毎日、書く」ことについてである。冒頭に、よしもとばななの文章があり、まずはよしもとばななの話から始まる。
よしもとばななは、小学校二年生のころから小説を書き始めていた。そしてその頃から文章を書き続けている。

著者は、ばななの『日々のこと』という、エッセイを取り上げる。その日々の習練が、いかにも平明な、軽くて、ふんわりした感じの文章を創り上げていると評している。
そして、文章の習練をしている人に参考になるとして、各章の冒頭の文章を引用する。

「私は今、神戸にいる」
「私の異常な風呂好きは周知の事実です」
「瀬戸内寂静さんにお会いした」
「友人が結婚した」
・・・・・(後略)・・・・・・
各章はこういった感じの文章で始まります。短くて、具体的で、日常的で、一見、気軽に書いているようにみえる文ばかりです。習練のためにはまず、こういう形で、気負わずに最初の一行を書いてみればいいんだという気持ちにさせてくれる。きわめて単純な文章が圧倒的に多い(抜粋)

そして、よしもとばななは二〇〇一年以降、ホームページに書く日記をまとめて、『よしもとばななドットコム見参!』『赤ちゃんのいる日々』『美女に囲まれ』といった文庫本を出版していることを紹介している。

次に文章を毎日書くことの代表である日記について語っている。著者自身は、メモ程度の日記を書くだけとしながら、毎日、大学ノートに克明に日記を書いている人を何人も知っていると言っている。
そして、吉井由吉が人の日記は「読んでいてもっともおもしろい」と書いていることを紹介し、以下の日記が著者の三大日記文学として勧めている。

  • 永井荷風『断腸亭日乗』(岩波書店)
  • 山田風太郎『戦中派虫けら日記』(ちくま文庫)
  • 串田孫一『串田孫一の日記』(『串田孫一集』第八巻・筑摩書房)
この章の「まとめ」は極めて単純です。
「毎日、なにかを書く」ということです。日々、たゆまずに各。そのうちにはきっとあなた自身の文章が形をなしていくはずです。(抜粋)

関連図書:
よしもとばななの談話『婦人公論』2005年3月7日号掲載
よしもとばなな(著)『日々のこと』学習研究社、1992年
よしもとばなな(著)『よしもとばななのドットコム見参!』、新潮社(新潮文庫)、2003年
よしもとばなな(著)『ついてない日々の面白み』、新潮社(新潮文庫)、2007年
よしもとばなな(著)『バナタイム』、マガジンハウス、2002年
吉井由吉(著)『聖なるものを訪ねて』、集英社、2005年

I 基本的なことを、いくつか 2 書き抜く

「私には、どういう文章を書けばいいかという規格品のイメージがありませんので、これはうまい文章だと思うものをノートに書き抜く。小さいときからつくってきたそういうノートが百冊以上になるとおもいます」(鶴見俊輔)(抜粋)

いいな、と思った文章を書き抜くことは、大切である、と著者は言っている。
冒頭に引用がある鶴見俊輔の文章がいまなお、人の心に響く新鮮さを持つ秘密の一つが、この膨大な書き抜きである。鶴見はこのような書き抜きをすることで、これはまずいなという感じを保つことが出来るといっている。そして、紋切型の言葉を使ってすいすい物を言わないこと、紋切型の発想を戒めるという効果もあるとしている。これはいい文章を書くための基本である。

さらに著者は、酒井寛の『花森安治の仕事』に書いてある、花森安治も大量の文章を書き写していたという逸話を紹介している。『暮らしの手帖』の編集長をしていた花森は、いくつものページを担当していたため、それらをなるべくたくさんの人が書いているような印象を持ってもらうために、さまざまな文体で書く必要があった。そのため、さまざまな人の文章を書き写して文体を学んでいた。

また、井上靖の「自分の心を揺さぶられた文章がある。骨董品のように、それを大切にしている。私の蒐集であるから、私だけにその価値と美しさが判り、他人には通用しないものかも知れない」という言葉を紹介している。

著者は、自分の気に入った文章を書く抜くことは、あなたの文章をみがくことになるとし、最後に次のようにまとめている。

書き抜き帳の利点をまとめておきます。
①書き抜くことで、その著者からより深く学ぶことができる。
②自分の文章の劣った点、たとえば、紋切型を使いすぎるといったことを学ぶことができる。
③自分がどういう文章を「いい文章」だと思ってきたのか。のちに、自分の心の歴史をたどることができる(抜粋)

関連図書:
鶴見俊輔(著)『文章心得帖』、潮出版社、1980年
酒井寛(著)『花森安治の仕事』、朝日新聞出版(朝日文庫)、1992年
井上靖(著)『「百物語」その他』、週刊朝日編『私の文章修行』、朝日新聞社、1979年

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