人間と機械
エルンスト・H・ゴンブリッチ 『若い読者のための世界史』 より

Reading Journal 2nd

エルンスト・H・ゴンブリッチ 『若い読者のための世界史』
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

三六 人間と機械

前章35章の「ナポレオン」の失脚の後、ヨーロッパではメッテルニヒが主導して古い時代への回帰がなされた。しかし、啓蒙主義の一つの原理、すなわち自然を理性的、合理的に観察しようとすることは生き続け、やがて旧体制を効果的に打ち壊すことになる。今日のところ第36章「人間と機械」では、イギリスではじまった産業革命と、それによる労働者の発生と社会主義の誕生、さらにヨーロッパでの旧体制の崩壊についてである。

メッテルニヒと、ロシア、オーストリア、フランス、スペインの支配者たちは、革命以前の外形を取り戻すことに成功した。人びとの関心は家庭、読書、そしてとりわけ音楽に向けられた。しかし、このような「ビーダーマイアー」(実直者)と呼ばれるこの時代の静かな安らぎはうわべだけのことだった。

このころ、啓蒙思想の原理の一つである「自然の理性的、合理的観察」は生き続けていた。そして「発明家」という人々がうまれ、蒸気機関、蒸気船、蒸気機関車、電信などが生れた。
これにより人々にすさまじい変化が起こった。中世の都市はすべてが手工業者の同業組合(ツンフト)により秩序づけられていた。しかし、機械が導入されると熟練工は必要なくなり少ない労働者でより多くの仕事ができるようになった。そして、労働者となったかつての熟練工はどんどん貧しくなっていく。

こうした状況で、工場や機械といった、それを所有することで他の人間の運命を決めるほど強大な力になり得るものこそ、個人のものでなく、みなの経注の財産にするべきであるという「社会主義」という考え方が生れた。
そして、社会主義は一八三〇年頃にフランスとイギリスに多くの思想家を生んだ。そのなかでドイツ出身のカール・マルクスがいた。彼の考え方は、少し違っていた。工場主が機械をみずから譲り渡すことなどは決してない。ただ戦いとるだけである。そのためには労働者の団結が必要である。

一地域の労働者だけではない。一国の労働者だけでもなく、全世界の労働者が、一致しなければならないのだ。それができて初めて労働者は、ただ賃金を払わせるというだけでなく、機械や工場をも自分のものとし、そして最後には、もやは「もつ者」も「もたない者」もない世界をつくるまでに強くなるのだ。(抜粋)

マルクスは、「もつ者」(カピタリスト)と「もたない者」(プロレタリア)は、たがいに常に戦いの状態にある、そしてこの「もつ者」と「もたない者」との戦いは、最終的には「もたない者」が「もつ者」からその所有物を、自分のためにするためでなく、私有物というものをなくすために奪い取ることでおわる、と説いている。

一八四七年にマルクスが、労働者向けに重要な呼びかけ(「共産党宣言」)を行ったとき、状況は彼が予想していたものと大きく違っていた。そして今日まで多くの点で違っている。

そのころ、世の中を支配していたのは、工場主ではなく、メッテルニヒが再び権力の座につかせた貴族たちであった。そしてその貴族たちは工場主や豊かな市民の敵であった。豊かになった工場主や市民は、能力あるものを古い習慣や規則で縛らず、その能力を自由に発揮させることが必要だと考えた。そして一八三〇年に市民はフランスで革命を起こし、ルードヴィッヒ(ルイ)十八世を王座から追放した。

一八四八年にパリで、つづいて他の多くの国で、新しい革命がおこった。市民は、自分の工場や機械ですることにはだれも口出しさせないよう。国家のすべての権力を手に入れようとしたのだった。ウィーンではメッテルニヒが追放され、皇帝フェルディナンドは退位をせまれられた。ここに、古い時代は完全におわった。このころから男たちは、今日のわたしたちと同じ、みにくい、長い筒型の灰色のズボン、堅い白い襟とそれにまきつく、くねくねと複雑にむすばれるネクタイを身につけるようになった。いまや無制限に工場は建てられ、鉄道は、ますます大量の品物を国から国へと運んだ。(抜粋)

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