伊勢物語ーー命をかける、それが愛
山口 仲美 『日本語の古典』 より

Reading Journal 2nd

『日本語の古典』 山口 仲美 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

II 貴族文化の花が咲くーーー平安時代
   5 伊勢物語ーー命をかける、それが愛

今日のところは、平安時代の第二番目、『伊勢物語』である。テーマが「命をかける、それが愛」ということでして、著者の気合が伝わってきます。それでは読み始めよう。


『伊勢物語』は歌を中心とした簡潔な短い話、一二五段で構成されている。中心は男女間の多様な愛の姿で、かりそめの恋、老いらくの恋、思いきれない恋、しのぶ恋などいろいろである。この章では、二四段の一途な恋の話を取り上げている。

片田舎に住んでいた男が都に宮仕えに行くといって女に別れを告げ三年間も帰ってこなかった。当時は夫が三年間も音信不通の場合は、妻の再婚が認められていた。

妻は、待ちくたびれて、熱心に求婚する別の男に「今夜逢いましょう」と結婚の約束を交わす。その時、元の男が帰ってきた。男は戸をあけてくれと頼んだが女は開けずに歌を差し出す。

あらたまの 年のとせを待ちわびて ただよひこそ にひまくらすれ(= 三年の間あなたを待ちわびて、ちょうど今夜、他のひととはじめて枕をかわすことになっているのですが)(抜粋)

ここで著者は次のように言っている。

女は、もう再婚の決意をしていたのです。でも、この歌の末尾に注目してください。言外には、元の男への愛情が失せていないことがほのめかされています。(抜粋)

ここで、「こそ・・・すれ」、つまり「こそ…未然形」逆接を導く強調表現として使われる。(著者はここで、いくつかの「こそ…未然形」の文例を示している。)
つまり、再婚することになっていますが、愛しているのはあなたですといった意味がほのめかされているとしている。そして男は次のような歌を詠んで答えた。

あづさゆみ ま弓つき弓 年を経て わがせしがごと うるはしみせよ (=年月を重ねて、私があなたを愛したように、新しい夫と親しんで下さいよ)(抜粋)

男のやさしい返事に女は打たれ次のような歌を詠んだ。

梓弓 ひけどひかねど 昔より 心は君に よりにしものを(=あなたのお心はどうであっても、私の心は昔からあなたにお寄せしていましたのに)(抜粋)

女は男への未練が断ち切れないが、しかし、事態が変わることはなく男は身を引いて去ってしまった。
そしてここからが重要だけれど、その時、女は、家を飛び出して男の後を追う。しかし男を見失い清水のある所に倒れ込んでしまう。そして、そこにあった岩に指から出た血で歌を書き付ける

あひ思はで れぬる人を とどめかね 我が身はいまぞ えはてぬめる(=私の愛に応じてくれることなく離れてしまった人を呼びとめることができなくて、私の身は消え果てしまうようです)(抜粋)

そう書いて、女はいき途絶えてしまう。

ここで著者は、女子学生たちの意見などを紹介し、実は著者も学生たちのように何でこんなことをするんだろうと思っていたと語っている。

でも『伊勢物語』を何回も読んでいるうちに、『伊勢物語』の言いたいことに気づかされました。愛するということは死をもおそれないこと、それが『伊勢物語』の主張だったのです。
・・・・(中略)・・・・
女が、死ぬところにこそ、『伊勢物語』の主張があるのです。愛するということは、死をも恐れないこと。愛に殉じることが出来る、それこそがすばらしいことだと言ってはばからない『伊勢物語』の精神が、ここにあるのです。自分の愛のかなわぬことを嘆きつつ、命の最後の炎で書き付けた歌こそ、記すに値するのです。(抜粋)

そして、著者はこの考えを四〇段の話を持ち出して補強している。

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