『日蓮 「闘う仏教者」の実像』松尾剛次 著、中央公論新社(中公新書)、2023年
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
はじめに
「コヘレトの言葉」関連の3冊を読み終わった。「コヘレトの言葉」は、旧約聖書の一節でして知識ゼロ、難しい部分もあったけども、なかなか面白かったかな?でも、まぁ次はキリスト教関係ではない本がいいよね、と思いました。
(読んだのは『コヘレトの言葉を読もう』、『それでも生きる 旧約聖書「コヘレトの言葉」』、『すべてには時がある 旧約聖書「コヘレトの言葉」をめぐる対話』の3冊ですね)
そしてそして、本屋さんの新刊書コーナーで見つけたのがこの本です!ズバリ「日蓮」!!
以前にNHKの100分de名著シリーズの『日蓮の手紙』の放送を見て結構面白かった。なので、気にしていたところでした。じゃあ、100分de名著のテキスト、植木 雅俊の『100分de名著 日蓮の手紙』もしくは、同じ植木の『日蓮の手紙』(角川ソフィア文庫)を読めばいいんですけど、なんというか、この本を!手に取ってしまったので、やっぱりこの本を読もうかと思ったのでした。ではでは、読み始めよう!
さて今日のところは「はじめに」である。冒頭で著者は、宮沢賢治の有名な「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」の詩を取り上げる。あまり知られていないことだが、この素朴な農民詩人賢治の詩は次の七行で終わっている。
南無無辺行菩薩 南無上行菩薩 南無多宝如来 南無妙法蓮華経 南無釈迦牟尼仏 南無浄行菩薩 南無安立行菩薩(抜粋)
これは、日蓮の「曼荼羅本尊」の一部である。
『日蓮』と題する本書を「雨ニモマケズ」の詩の引用から始めたのは、他でもない。この詩が、賢治の日蓮信仰に基づく作品だからである。(抜粋)
賢治の作品を理解しようとすれば、その詩の背景に賢治の法華経信仰、日蓮信仰があることを無視することはできない。
賢治は、大正九年(一九二〇年)以降、国柱会の熱心な会員であった。国柱会は、田中智学が興した日蓮を祖と仰ぐ宗教政治団体である。
この賢治の詩のように、日本人に広く愛されてきた詩人や詩の背後にも日蓮の影響があり、その作品を理解するには日蓮を知る必要があることをまず注意を喚起したい。(抜粋)
日蓮は、鎌倉時代前期の貞応元年(承久四年四月に改元、一二二二年)に誕生し、弘安五年(一二八二年)、六十一歳で亡くなった。日蓮の生きていた時代は、さほど多くの信者を獲得できなかったが、その後の弟子たちの布教活動によって、一五世紀には、京都の町衆に浸透し、江戸時代初期の芸術家本阿弥光悦、俵屋宗達らも信者である。そして近代においては、国柱会の田中智学、顕本法華宗の本多日生らによって日蓮主義が提唱された。日蓮主義は、日蓮の教えを信仰レベルにとどめず、政治・社会・文化活動にまで拡張した。
日蓮主義は、『法華経』に基づく仏教的な政教一致によって、天皇を中心とする日本統合と世界統一の実現により、理想世界の達成をめざした政治宗教運動であった。(抜粋)
日蓮主義は、極めて大きな影響力を持ち、宮沢賢治をはじめ、満州国建設の中心人物であった石原莞爾、テロリストの井上日召らも国柱会の会員であった。また、霊友会、立正佼成会、創価学会などの新宗教の教団も日蓮系である。
このように日蓮の宗教は、中世以降、近現代にいたるまで人々に生きる力やモデルを与えてきた。本書では、以下、そうした人々の心を捉え、人々に生きる力を与えてきた「日蓮とは何か」を考察していこう。(抜粋)
ここより、この本がどのような研究姿勢で研究され、どのような資料を使用していたかについて説明されている。
日蓮に関する研究の方法論は「思想史的研究(教理学的研究)」と「歴史学的研究」の二つの系統がある。
本書は、思想史的な成果に学びつつも、歴史学的な方法論を駆使して、日蓮の実像に迫ろうとしている。(抜粋)
特に日蓮がライバル視し、激しく糾弾した鎌倉極楽寺の僧忍性とのかかわりについて注目している。
ここで伝記を叙述するための資料としては、『昭和定本 日蓮聖人遺文』を主な史料とした。この『日蓮遺文』については、真蹟(確実な自筆)が残っていないものが多数あり、真蹟が残っていないために偽撰とされ史料として使われなくなったものもあるが、本書では、真蹟が無い場合も、出来る限り使用して豊かな日蓮像を描いていくとしている。
関連図書:
小友 聡 (著) 『コヘレトの言葉を読もう 「生きよ」と呼びかける書』 日本キリスト教出版局 2019年
小友 聡 (著) 『それでも生きる 旧約聖書「コヘレトの言葉」』 NHK出版 (NHKこころの時代)、2020年
若松 英輔、 小友 聡(著)『すべてには時がある 旧約聖書「コヘレトの言葉」をめぐる対話』 、NHK出版(別冊NHKこころの時代宗教・人生)、2021年
植木 雅俊(著)『100分de名著 日蓮の手紙』 NHK出版 (100分de名著)、2023年
植木 雅俊(著)『日蓮の手紙』角川書店(角川ソフィア文庫)2021年
立正大学日蓮教学研究所(編)『昭和定本 日蓮聖人遺文』(全四巻)総本山身延久遠寺
目次 はじめに [第1回] 第一章 立教開宗へ [第2回][第3回] 第二章 立正安国への思いと挫折 [第4回][第5回][第6回][第7回][第8回] 第三章 蒙古襲来と他宗批判 [第9回][第10回][第11回] 第四章 佐渡への配流 [第12回][第13回][第14回] 第五章 身延山の暮らし [第15回][第16回][第17回][第18回][第19回] おわりに [第20回] あとがき
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