『モチベーションの心理学 : 「やる気」と「意欲」のメカニズム』 鹿毛雅治 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第1章 モチベーションとは何か (その1)
1 なぜモチベーションが問われるのか ― 「達成」をめぐって
2 モチベーションへの心理学的アプローチ
3 モチベーションの2側面
第1章は、モチベーションについての概説である。今日のところ(1~3節)は、導入としてモチベーションとは、どういうことかについて解説される。
1 なぜモチベーションが問われるのか ― 「達成」をめぐって
20世紀の初頭にモチベーションという用語は、人をコントロールすることに対する社会的関心から生まれた。そして今日モチベーション研究が盛んな二大領域は、「教育」と「経営」であり、そのどちらも働かせること、勉強させることが切実な課題であり、人をコントロールすることに対する関心やニーズがあった。
モチベーションの研究で重要なキーワードが「達成」である。
モチベーションの研究者は、どのような「働き」を研究対象にするかを決めなければならなかった。そこで彼らの多くは、意味のある動きやその結果の指標として達成に着目し、それをテーマとして取り上げることにする。その結果モチベーションは達成に関する行動やその成果を説明する学問分野へと発展していったというわけだ。(抜粋)
その象徴が
達成(パフォーマンス) = 能力×モチベーション
という公式である。
ここで達成とは当人にとって価値のある行為をすること、それをやり遂げることであり、必ずしも他者や社会が求める業績や成果ばかりでない。
また、達成感は幸福感と関連していて、達成はウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)の構成要素となっている。
この「達成」の「当人にとって」という部分は、『無気力の心理学 改版』でも強調されているように思う。(ココ参照)。自分にとって好ましい変化でないと、達成感に繋がらないという話だった・・・と思った。(つくジー)
2 モチベーションへの心理学的アプローチ
われわれは、モチベーションを説明したり理解したりする時に「動機」という言葉を使う。しかし、これではモチベーションの説明としては単純すぎる。
まずモチベーションの定義は、「特定の行為が始発し、持続し、方向づけられ、終結するというプロセス」である。
モチベーションの研究では、行為のプロセスに対し以下の3つの問いを主に検討されてきた。
- 1)行為の始発の問い
「その行為が起こるのはなぜか」(行為始発の問い)というテーマである。これは日常語の「動機」にほぼ該当する。しかし、モチベーションの研究では、表面的な原因だけでなく、その背後に隠れている無意識な原因(非意識過程)をも対象にしている(第6章参照)。 - 2)行為の持続
次の問いは、「なぜその行為が続くのか/続かないのか」(行為の持続の問い)である。一般に行為の持続時間が長いほどやる気があるとされるが、重要な点は、なぜその行為が持続するか、終わってしまうかであり、その点を探ることが必要である。 - 3)方向づけの問い
最後の問いは「その行為がどのようにコントロールされ、変化したり、進展したりしていくか」(方向づけの問い)である。モチベーションのプロセスにおいて、行為を柔軟に変えるなどの調整や、発展的な行為が生じたりする。モチベーションの心理学では、このような現在進行形の行為の展開にも着目する。
3 モチベーションの2側面
モチベーションには、エネルギー性(量的側面)と方向性(質的側面)という2つの要素がある。
一般にやる気に対しては、そのエネルギー性が強調されて理解されている。しかしそのような「素朴概念」は改めなければならないと著者はいっている。モチベーションには「エネルギー性」と「方向性」の2要素があり、人の行為には必ず「向かう方向」があるため、その「量的側面」のみを着目しただけでは不足である。「方向性」とは「何のための行為なのか」という視点であり、モチベーションは、量的な側面だけに着目するのではなく質的側面に着目する必要がある。
関連図書:波多野誼余夫/稲垣佳世子 (著)『無気力の心理学 改版 : やりがいの条件』中央公論新社(中公新書)2020年
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