「どんなときに無力感が生じるか」
波多野誼余夫 / 稲垣佳世子『無気力の心理学 改版』より

Reading Journal 2nd

『無気力の心理学 改版 : やりがいの条件』 波多野誼余夫/稲垣佳世子 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

第1章 どんなときに無力感が生じるか

まえがきに書かれているように第1章から第3章は、「獲得された無力感」について書かれている。まず、第1章では、実験事実に基づいて「どのようなときに無力感が生じるか」について解説される。


いくら努力をしたところで、自分のおかれている「ひどい」事態に、なんら良い方向への変化が生じそうにないと信じ、すっかり意欲を失っているのが無力感にほかならない。(抜粋)

著者は、まず「無力感」についてこのような表現で定義している。そして、この「ひどい」事態が改善目指して努力しても、自分の努力では何ともならないと思った時、大抵の人は適応的な行動をとれず、情緒的に混乱してしまうのである。

このような状況を、セリグマンは実験的に証明した。ここでは、彼のイヌなどの動物を使った実験が紹介されている。
セリグマンの実験では、「ひどい」事態(電気ショック)が、自分の努力では回避できないグループが無気力となった。

さらにここで注目すべきなのは、この無力感がもともとそれが獲得されたのとは非常に違う場面にまで一般化されたということである。(抜粋)

つまり、いったん無気力になった個体は、他の場面でも無気力のままであった。

セリグマンの実験により、回避できない苦痛刺激に繰り返しさらされることは、次の3つのマイナスの効果を持つ。

  • 環境に能動的に反応しようとしいう意欲が低下する
  • 学習する能力が低下する
  • 情緒的に混乱する

(後記)
このセリグマンの実験に関しては、『モチベーションの心理学』「随伴性認知と学習性無力感」でも解説されている。


このような実験を、ヒロトは人に対して行った。その結果、

ものごとの成功・失敗は自分では統制できないものだ、つまり偶然や、運・不運によって決まると考えている被験者のほうが無気力になりやすいことを見出した。(抜粋)

また、自分の努力で事態が改善できないが、どういう時に苦痛が与えられるかがわかる場合の方が、情緒的混乱が少ないことも、実験によりわかっている。

このような無力感におちいったイヌやネズミや人間をそこから救う手立てはないかについても、セリグマンは実験をしている。かれはイヌをどのような行動をすれば、苦痛から逃れられるかを、「強制」的に行動させて経験させることによって無力感から立ち直ることを示した。

しかしここで、問題なのはイヌの場合はある行動が有効かどうかは、行動してはじめてわかるが、人間の場合は、「ある行動を行うことがよいと知っていてもできない」ことがしばしばある事である。

この点についてバンデューラは、次のように言っている。

心理療法はきわめてさまざまな技法を用いているが、うまくいっている場合はいずれも無力感を低下させ、自分が有能だという感じを増すことに役立っている。しかし、人間の場合に、とくに心理療法の場合に問題となる無力感というのは、自分の行動が好ましい結果をもたらすかどうかというよりも、むしろ、自分が適当だとわかっている行動をとることができるかどうかに関するものであることが多いのだと。(抜粋)

つまり、人間の場合は、自分の行動を適切なものに変えていくことができるようになるためには、自分でもうまく出来たという経験を持つことが大事で、そのような具体的な経験を持たせることが治療の第一歩となる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました