『忙しい人のための美術館の歩き方』 ちいさな美術館の学芸員 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第5章 結局、美術館に行く意味って何? 3 フォースプレイスとしての美術館
今日のところは、「フォースプレイスとしての美術館」である。ここでは、美術館はいわゆるサードプレイスとなることは難しいことを説明したのち、著者は、美術館を「フォースプレイス」という考えを示している。そして、最後にこの本の締めくくりとして、著者が考える美術館に行く意味が示される。それでは、読み始めよう。
サードプレイスという言葉
社会学の分野から生まれた言葉に「サードプレイス」があります。この「サードプレイス」とは、家庭(ファーストプレイス)でも職場(セカンドプレイス)でもない環境という意味である。そしてその定義は「社会的な立場から解放されたリラックス状態で、人との交流を楽しむことができるコミュニティ」である。そこは、社会的な関係が固定され緊張感を持った場所でなく、フラットな人間関係が基本となっている。このような場所としてよくあげられるのが、習い事の施設、スポーツジム、行きつけのカフェや居酒屋などである。
サードプレイスと美術館
次に、美術館がこのサードプレイスになりうるかというと著者は、ちょっと難しいかなといっている。なぜならば、サードプレイスの定義には「人との交流」があり、家庭とも職場とも違う人間関係をもち、その輪の中で交わることがサードプレイスの本質であるからである。美術館はそのような場所にはなりづらい。
そして、美術館がそのようなサードプレイスになり得る可能性として次の三つをあげている。
- 美術館主催のイベントに定期的に参加する:美術館では、展覧会開催に合わせてさまざまなイベントが開催されている。そのなかで最近積極的に開催されているのが、少人数のグループで相互に話合いながら進める対話型鑑賞があるが、このようなイベントに定期的に参加すれば、その中に顔見知りもできてくる。
- プランティアとして美術館で活動する:ボランティアを募っている美術館は多くある。そのようなボランティア活動を通じて学芸員やボランティア仲間ともつながりが生まれる。
- ネット上で顔見知りをつくる:美術館での鑑賞をブログなどで発信していけば、そのうち共感を覚えた人がフォローしてくれる。逆に自分もいいなと思ったアカウントをフォローすれば、しだいにネット上の顔見知りが出来てくる。
このような手段を工夫すれば、他者との交流が生まれづらい美術館でも、十分サードプレイスとして活用できる。
フォースプレイスとしての美術館の可能性
しかし、依然として美術館はサードプレイスとはなりづらいが、著者はここで「フォースプレイス」という独自の概念をもって美術館の可能性を探っている。
著者のフォースプレイスの定義は、「一人になって自分自身とじっくり向き合える場所」である。家族の一員としての私でもなく、職場の役割を持った私でもないあるがままの私になれる場所である。
人は、家庭でも職場でもその場にあったキャラクターを演じている。そのためここでいうサードプレイスでも実は無意識にそこにあった自分を演じているのである。サードプレイスはきのおけない場所であってもそういう意味でのストレスはあり、やはり自分一人になりたい時もあるはずである。
だからこそ、ありのままの自分でいられるフォースプレイスが必要なのである。(抜粋)
そう考えると、美術館はこのフォースプレイスに最適な場所である。美術館は癒される場所でもあるが、それと同時にたくさんの刺激を与えてくれる場所でもある。人は作品に向き合えば必ず心が揺り動かされる。
フォースプレイスは「一人になって自分自身とじっくり向き合える場所」である。たとえばカフェなどで自分一人になりゆっくりする場合は、何も刺激がなく自分自身に向き合うような取っ掛かりもない。そのためただ静かな場所はフォースプレイスとしては、適切な場所とは言えない。
しかし、美術館では、その作品から適度な刺激を受けることができる。その刺激により自分自身にも向き合うことができる。著者は、そのようなフォースプレイスとして美術館を活用するのはどうですか、と言っている。
この章の最後にこの本のまとめが書かれている。
美術館に行く意味、それは----
忙しい毎日にそっと余白を差し込むことです。
効率に追われる現代で、あえて「無駄」に身をゆだねる贅沢な時間を味わうことです。作品からの呼びかけに耳を澄ませ、目に映る世界をほんの少し変化させることです。そして自分自身と丁寧に向き合いながら、深く息を吸い直すことです。
美術館は、これらの行為を優しく受け入れてくれる場所です。今までも、これからもタイパでは測れない価値が、そこには確かにあると断言できます。さぁ、物は試しです。今週末にでも気になっている美術館に足を運んでみませんか。(抜粋)
[完了] 全20回

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