連邦憲法制定会議(その2)
上村 剛 『アメリカ革命』 より

Reading Journal 2nd

『アメリカ革命』 上村 剛 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

第3章 連邦憲法制定会議 ― 一七八七年 (その2)

今日のところは「第3章 連邦憲法制定会議」の“その2”である。前回“その1”では、一七八七年に行われた「連邦憲法制定会議の意義とはじまり、さらにその議論は四段階(起・承・転・結)に分け流れを概観した。今日のところ“その2”では、会議の議論の詳細に入る。まずはヴァージニアなどの大きな邦とニュージャージーなどの小さな邦が争った「起」・「承」の段階までをまとめることにする。それでは、読み始めよう。

第一段階 起 ヴァージニア案の攻勢

ヴァージニア案

連邦憲法制定会議が始まる。最初にランドルフによりヴァージニア案が披露される(ランドルフ)。ヴァージニア案は、現行の連合規約の欠陥は、連合が弱すぎたことであるとし、「外国の進行に対して安全ではない」「邦同士の争いを調停できない」「現行の連合体制では、享受できない利益がたくさんある」「邦の権利侵害に対して対抗できない」「邦憲法に対して連合規約は優位性を主張できない」などの欠陥をしめした。

そしてこの欠陥を修正するためにヴァージニア案を示す。

① 連合規約の目的(共同の防衛、自由の保障、一般福祉)のための修正、拡充
② 代表の人数は分担金か自由民の数による
③ 二院制
④ 連邦下院:人民によって選出。任期未定
⑤ 連邦上院:連邦下院によって選出。任期未定
⑥ 連邦議会の権限規定。ここの邦の立法について拒否権を持つ
⑦ 執行府(≒ 大統領)は連邦会議によって選出。任期未定。再選不可
⑧ 修正参議会を設置、連邦議会への拒否権
⑨ 連邦最高裁と下級審の設置。連邦議会による選出。終身任期
(⑩~⑭は割愛)
⑮ 改正規定:人民によって選出された会議による批准

という内容であった。

ヴァージニア案に対する議論

ここでヴァージニア案に対する反論が主に小さい邦の代表からなされた。

  • 第一条:小さい邦の代表は、邦を廃止してマイノリティである自分たちを吸収して、新たな統一国家をつくるのではないかという不安を抱く。ランドルフはこれを否定した。
  • 第二条:連邦の議席が邦の富か人口ということになり、人口の多い邦に有利。しかし「自由民の定義が難しい」という懸念。これは黒人奴隷をどうカウントするかによって違ってくる。黒人奴隷をカウントした場合、奴隷制を維持する南部の連邦の権力拡大につながる(奴隷制を廃止した北部の邦にとってジレンマ)。
  • 第四条:選出方法が議論。人民による選出は、「民主政の行きすぎ」という意見があった。
  • 第五条:上院議員は下院により選出(マディソン、ランドルフ)。対案1.邦議会での選出。対案2:人民による選出(ウィルソン、メイソン)
  • 第六条:連邦の権限が大きく、小さい邦が猛反発
  • 第七条:選出方法が議論。人民による選出、連邦議会による選出のどちらかで議論。いったんヴァージニア案通りに連邦議会による選出で落ち着く。(議会終盤に人びとが選挙人を選ぶ方法に変更)
  • 第八条:修正参議会の設置の案(マディソン)。執行府と最高裁判所が一つの参議院を構成し、連邦議会に拒否権を持つことで立法権力を抑制する。多くの反発。

第二段階 承 ニュージャージー案 小さい邦の反論

妥協案としての五分の三条項

このヴァージニア案に小さい邦のデラウェア代表のガニング・ペッドフォードやニュージャージー代表のウィリアム・パターソンは強く反対した。人口に比例して議席が決まる場合は、小さい邦は著しく不利となるからである。

しかし、それに対してジェームズ・ウィルソンは、反論する。議席が邦ごとに一つであると、人口の多い邦の一議席は、人口の少ない邦の一議席より人口に対する価値が低くなり、すべての人は本質的に平等であるという精神に反する。

ここで議論が紛糾したためフランクリンが仲裁に入り、ウィルソンが妥協案を示した。この妥協案が、悪名高い「五分の三条項」である。

五分の三条項」とは、人口を数える時、黒人奴隷は五分の三人としてカウントする、というものである。つまり一人の人間としてみなしません、という残酷な考え方であるが、参加者が白人しかいないため有力な譲歩手段となった。

ウィルソンは小邦と南部の州が結託することを恐れ、南部の州の議席を増やす案を持ち出した。そのため、デラウェア、ニュージャージーの以外の邦が賛成し「五分の三」条項は、南北戦争後に廃止されるまで憲法条文に残ることになる。

次にもうひとつの妥協案が比較的小さいコネティカット(ロジャー・シャーマン)が、デラウェア、ニュージャージーを擁護する妥協案(「コネティカット妥協」)を提出する。これは上院だけが各邦で一議席にしてはどうかというもので、ここでは否決してしまうが、のちのちの伏線となった。

ニュージャージー案

ここで、ニュージャージーは、ヴァージニア案に対抗するために「ニュージャージー案」と呼ばれる対案を示した。

ニュージャージー案は、①連合規約は連合の保存に適するように修正されるべきとして、既存の連合を存続させ、新たな憲法体制を取らない、②連合会議は一院制、邦議会による選出、また、③連合会議の代表が複数人からなる執行府を選出する、というものだった。

ヴァージニア案ニュージャージー案
立法府の数
基礎人民に直接邦議会
議席配分人口比各邦同数
執行権単一複数
多数or少数多数の意志を反映少数の意志に配慮
立法権より強大化する方向あくまで限定的な権限
中心ヴァージニア、ペンシルヴェニアニュージャージー、デラウェア

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