[読書日誌]『日本仏教再入門』
末木 文美士 編著

Reading Journal 2nd

『日本仏教再入門』末木 文美士 編著、講談社(講談社、2024年
[Reading Journal 2nd:読書日誌]

はじめに 「日本仏教」という問題(末木文美士)

司馬遼太郎の『空海の風景』を読み終わった。司馬遼太郎は『空海の風景』を、「真言密教こそが、仏教で第一の教え」である、という姿勢で書いている。しかしながら、『日蓮 「闘う仏教者」の実像』『宮沢賢治 久遠の宇宙に生きる』などを読むと、「法華経」こそが最上の経典である、と書いてある。

もちろん、それぞれの立場でそうなのですが、そもそも、仏教というものをあまり知らない。そこで、今回はこの本『日本仏教再入門』を読んでみることにした。(この本、書評かなんかで読んだか?忘れてしまったが、前々から気になっていた本です。)

まずは、末木文美士「はじめに」である。それでは読み始めよう。


今日、仏教への関心は次第に強くなっている。社会が停滞化して、先行きが見えにくいこと、少子高齢化で様々な不安が大きい事、大きな災害が続いて人の生死の問題に直面していることなどにもよるであろう。(抜粋)

まず、末木文美士のこの言葉より、本書が始まる。

今日のところ、「はじめに」では、仏教の研究分野の多様化について説明し、そのなかでの「日本仏教」の位置を確認する。そして本書の狙いについて言及した後、各章の構成について説明している。

仏教研究の諸分野

今日、仏教研究は多面化している。仏教を含む宗教は、人間の広範囲な営み全てに関わっているため、その学問領域も、仏教学・歴史学・宗教学・人類学・哲学・倫理学・文学・美術など多岐にわたっている。

ここで「仏教学」「宗教学」「(仏教研究としての)歴史学」の違いを説明している。

  • 仏教学:もともとヨーロッパのインド研究から始まり、イギリスにより持ち去られた多数の文献の解読作業がもとになっている。そのため、インド研究と密接に関係し、古典文献の研究が中心となる。
  • 宗教学:広義には、仏教学を含むが、狭義の意味では、仏教学のような文献主義でなく、文献を使いながらも、宗教とは何かを一般化していくような方法をとる。
  • 歴史学:インドでは、普遍的な真理を重んじるためあまり歴史叙述が少ないが、一方、中国、さらに日本では、膨大な寺院史料が残っている。この資料により仏教の歴史を明らかにする。

「日本仏教」という問題

本書は、「日本仏教」に焦点をあてる。

仏教は「南伝系上座仏教」「チベット系仏教」「東アジア系仏教」にわかれる。そして、この東アジア系の仏教が六世紀に朝鮮半島から伝わったのが日本仏教である。

仏教はそれ以降現在に至るまで断絶することなく継承され、日本文化の大きな軸となっている。

それ故、日本仏教を理解することは、一方で仏教という、文化圏を超えて広がった大きな宗教の思想文化を理解することであるとともに、他方で日本文化を理解することでもある。(抜粋)

多くの日本人にとって仏教徒というアイデンティティは、日本人というアイデンティティを超えるほど強力なものではない。しかし、曖昧な日本的なものとして日本仏教はそれなりの地盤を持っている。

仏教は文化圏を超えて広がる普遍性を持った宗教である。そのため、仏教の真理は普遍的という立場に立てば、「日本仏教」というタイトルを立てる必要はない。しかし、他宗教と違い、仏教の場合は地域差が大きく、あえて言えばゴータマ・シッダッタ(釈迦仏)を開祖ということだけが、さまざまな仏教に共通するものである。

その中で、日本仏教はかなり特徴の強い、独特の形成を発展させてきた。そこにはさまざまな批判されるべきところもあるが、同時に、今日改めて見直されるべき重要な思想も少なくない。私たち自身の踏まえるべき伝統的な思想・宗教として、日本仏教を取り上げて考え直すことは、私たちにとって不可欠なことではないだろうか、本書が「日本仏教」に焦点を当てるのは、このような理由による。(抜粋)

本書の狙いと各章の構成

仏教の研究は、さまざまな方向から研究され、大きく書き換えられている。本書はこの広い研究を分野を異にする三人の書き手により分担することにより、その重層的な性格を明らかにする

  • 第一章末木文美士(専門は仏教学)が担当、日本仏教の輪郭を明確にするための概説
  • 二章から六章頼住光子(専門は倫理学)が担当:主要な日本仏教の思想(聖徳太子・最澄・空海・法然・親鸞・道元・日蓮など)の思想を検討する
  • 第七章から第十章大谷栄一(専門は社会学)が担当:近代の仏教とその果たした役割について
  • 第十一章から第十四章末木文美士が担当:肉食妻帯にくじきさいたいや葬式仏教、神仏習合など、これまで捉えきれなかった日本仏教の複雑な実態について
  • 第十五章:三人の筆者:これまでの章を振り返りと日本仏教の可能性について

関連図書:
司馬遼太郎(著)『空海の風景 新版』(上)(下)、中央公論新社、2024年 
松尾剛次(著)『日蓮 「闘う仏教者」の実像』、中央公論新社(中公新書)、2023年
松尾剛次(著)『日蓮 「闘う仏教者」の実像』、中央公論新社(中公新書)、2023年



目次 
はじめに 「日本仏教」という問題(末木文美士)[第1回]

第一章 仏教の展開と日本 序説(末木文美士)
1 仏教の諸形態
2 東アジアの中の日本仏教

第二章 仏教伝来と聖徳太子 日本仏教の思想1(頼住光子)
1 仏教を考える視点
2 仏教の伝来と受容
3 聖徳太子と「十七条憲法」

第三章 最澄と空海 日本仏教の思想2(頼住光子)
1 最澄の生涯と思想
2 空海の生涯
3 空海の思想

第四章 法然・親鸞と浄土信仰 日本仏教の思想3(頼住光子)
1 鎌倉時代に新たに起こった仏教の特徴
2 法然の生涯と思想
3 親鸞の生涯と思想

第五章 道元と禅思想 日本仏教の思想4(頼住光子)
1 道元の生涯
2 『正法眼蔵』に見られる道元の思想

第六章 日蓮と法華信仰 日本仏教の思想5(頼住光子)
1 国家と仏教
2 日蓮の生涯と思想

第七章 廃仏毀釈からの出発 近代の仏教1(大谷栄一)
1 「近代仏教」とは何か?
2 廃仏毀釈と教導職
3 近代日本の祭政教関係の制度化

第八章 近代仏教の形成 近代の仏教2(大谷栄一)
1 仏教の近代化を考える
2 明治二〇年代の仏教改革をめぐる構造
3 日清・日露戦間期における近代仏教の形成

第九章 グローバル化する仏教 近代の仏教3(大谷栄一)
1 グローバル化の始まり
2 明治二〇年代初頭の「欧米仏教」ブーム
3 シカゴ万国宗教会議への参加

第十章 社会活動する仏教 近代の仏教4(大谷栄一)
1 社会活動の二つのパターン
2 大正期における仏教社会事業と参政権運動
3 昭和前期から戦後、現代へ

第十一章 日本仏教と戒律 日本仏教の深層1(末木文美士)
1 僧侶の妻帯
2 大乗戒の採用
3 戒の変貌

第十二章 葬式仏教 日本仏教の深層2(末木文美士)
1 近代の葬式仏教
2 仏教の死生観と廻向の原理
3 往生と成仏

第十三章 神仏の関係 日本仏教の深層3(末木文美士)
1 近代の神仏関係
2 神仏習合の形成
3 神道の形成と仏教

第十四章 見えざる世界 日本仏教の深層4(末木文美士)
1 顕と冥の世界
2 諸思想の交流と仏教
3 近代の中の死者と仏教

第十五章 日本仏教の可能性 まとめ(頼住光子・大谷栄一・末木文美士)
1 仏教思想の観点から(頼住光子)
2 近代仏教の観点から(大谷栄一)
3 仏教土着の観点から(末木文美士)

学術文庫版あとがき(末木文美士)

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