(初出:2008-06-18)
「中国の五大小説」(上) 井波律子 著
『三国志演義』の巻ーーー興亡の歴史と物語の誕生 三 色と欲に流れる美将、呂布―ー虎牢関の戦い
黄巾の乱をきっかけとした後漢の乱世で宦官派を一掃しようと何進がクーデターを起こす。何進は宦官十常侍たちの罠のため殺害されるが、クーデターの混乱に乗じて、権力を握ったのが薫卓である。薫卓は皇帝をないがしろにして、恐怖政治を行う。
この薫卓が惚れこんだのが演義きっての美将、呂布である。
曹操の檄文により各地で旗揚げした諸侯は、力を合わせて薫卓を討つことになる。劉備一行もその連合軍に加わる。連合軍は薫卓軍の猛将、華雄にてこずるが、ここで関羽があらわれ、華雄の首を落としてくる。この戦いにより曹操は関羽にほれ込み関羽が死ぬまで自陣に加わらないかとラブコールを送りつづけることになる。
華雄をうちとられて慌てた薫卓は、要衝の虎牢関へと陣を移動する。猛攻をかける連合軍の前に現れたのが、美将、呂布であった。この場面で呂布は張飛、関羽、劉備の三人に取り囲まれながらも、討たれなかった。演義の作者は三人を向こうにまわしての立ち回りで呂布の強さを際立たせている。
しかし、呂布は勇敢な美将であるが、決して颯快感がない。まず彼は実父をなくしたあと、一度、丁原の養子となるが、その強さにほれ込んだ薫卓の贈り物などにあっさり心を奪われ、丁原の首をとり薫卓のもとに行ってしまう。そして、呂布はまた薫卓をも裏切ることになる。
朝廷の重臣、王允は薫卓を倒すためにそのボディーガードである呂布を使う事を考えつく。二人がともに好色であることを考慮し、美しい歌姫、貂蝉を一旦、呂布に差し出すふりをしたうえでこっそり薫卓に献上する。この計略により二人は対立し呂布は薫卓を殺してしまう。
呂布はこのようにコロコロと変節を重ね、ひたすら欲望に憑かれて突っ走る獣のような存在である。
呂布の場合は、考える能力がないというだけでなく、目先の欲望にすぐ飛びつく、猛禽のような邪気にみちた貪婪さが、なんともいえない暗い印象を与えるのです。
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