エルンスト・H・ゴンブリッチ 『若い読者のための世界史』
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
三九 世界の分配
やっと、著者ゴンブリッチの両親の若い頃まで話が進んだ。次章に「五〇年後のあとがき」があるが、まずは25歳のゴンブリッチの書いた本としてはここが最終章である。
ここでは、ヨーロッパの国々の資本主義の発展と植民地主義の関係について、さらに第一次世界大戦について書かれている。
ヨーロッパの国々は、どんどんと工業化されていく。工場で生産される製品は国内だけでは売りさばくことが出来なくなり、経済危機の状況が生まれた。そしてその状況を回避するためには、海外へ新しい市場を求めることが必要である。そのため植民地を求めアフリカのような未開の地を目指して諸国家の競争が始まった。植民地は、自国の製品を売る市場としてだけでなく、自国の工場の原材料を確保するためにも必要であった。そして、自国で職を得られなかった人は、植民地へ移住した。
ヨーロッパの国々にとって植民地を持つことが何よりも重要なことになったのだ。(抜粋)
この世界の分配に対してイギリスが最も恵まれていた。イギリスは、すでに数百年前からインド・オーストラリア・北アメリカに領地を持っていた。アフリカにも、エジプトなどに強い影響力があった。
フランスは、インドシナの大部分とアフリカの多くの地を手に入れていた。
ロシアは、海外に植民地を持つ必要はなかった。彼らの国土は広大であったためである。そして彼らはアジアを横断して向こう側の海まで手を伸ばした。しかし、それはヨーロッパの良き生徒の日本によって防止されてしまった。一九〇五年にロシアと日本の間に戦争が勃発し、強大なロシア帝国は日本に敗れた。
そして、日本は今や自分たちで工場を建て、海外に植民地を求めた。
ドイツとイタリアは、長く分裂状態だったため、この競争に入るのが遅れてしまった。
もんだいは、どの国にも欲望にかぎりがないということである。植民地が多ければ、それだけ多くの工場を築くことができ生活をよくすることができる。多くの製品を生み出せば、いっそう多くの植民地が必要となる。これは、征服欲とか権勢欲ではない。現実がひつようとしたのだ。しかし、いまや世界はすでに分配をおえていた。(抜粋)
これ以上の植民地を手に入れるためには、隣の土地を戦って奪うしかなかった。そして、各国の軍備拡張競争が始まった。そして、この競争に今や多くの工場を持ったドイツが加わった。ドイツは強大な戦艦を建造して、アジアとアフリカに徐々に影響力を示した。
そして、ついに戦争が始まった。はじまりヨーロッパでただひとつ植民地を持たなかった国オーストリアでの事件だった。オーストリアは、そのころトルコから離れたまだ自分たちの工場を持たない東欧の国々をみずからの支配下におこうとしていた。しかし、東欧の人たちはそれを望まなかった。そして、一九一四年にオーストリアの皇太子が新たに手に入れたボスニアの地を旅行中にセルビア人に暗殺された。
オーストリアがセルビアに報復を計画すると、そこにロシアが介入してきた。オーストリアと同盟を結んでいたドイツが参戦すると、たちまち古くからの敵が一斉に立ち上がった。ドイツはパリに向けて進軍する。イギリスもドイツ軍が勝利し、ドイツがヨーロッパの最も力のある国になることを怖れ参戦した。
ドイツとオーストリアは、「アンタント(連合)」軍に囲まれた。そのため両国を「囲まれた同盟」とよんだ。一九一五年にはイタリア参戦する。
そしてドイツとオーストリアでは、生活苦が人々を襲った。ロシアでは、革命が起こりツァーリは、退位したが、ロシア人はレーニンの指揮のもと戦争を続行する。そして雨冷夏も新たに戦争に加わった。
けっきょく両者は、力尽きた。一九一八年アメリカ大統領ウィルソンが、各国は各自の将来を自分で決めるという「公平な平和」を提案したとき、「囲まれた同盟国」の多くの軍隊は戦いを放棄した。このようにして、無理やり休戦条約がむすばれた。(抜粋)
その後、ドイツ皇帝もオーストリア皇帝も退位し、オーストリア帝国を構成していた諸民族は独立した。
ウィルソンが約束した「公平な平和」について交渉するために各国は、パリに集まった。結局は、戦争のすべての責任はドイツにあり、ドイツからすべての植民地が取り上げられ、一八七〇年以前のフランス領はフランスに返された。さらに高額な賠償金の支払いが課せられた。
著者は、最後のメッセージとして、このように人間は、自然の克服に成功したが、しかし貧しさが亡くなったわけではないと、語りかける。そして、
それでも、きみも、そしてわたしも、よりよい未来に期待しよう。それは、きっと来るのだから。(抜粋)
と結んでいる。
この後、世界の歴史を大きな川に見立てた長いエンディングがある。飛行機に乗って世界史の川を眺めながら下っていく。そして、最後に高度を下げると小さな泡が一つ一つ浮かんでは消えていくこと、そしてその浮かんでは消える泡の一つひとつが私たちの運命であると語っている。そして最後に著者はこのように言って終わっている。
大波のたった一度の浮き沈みのなかの、小さなちいさな水滴の押し合いへし合いのなかの、私たちの戦い以外のなにものでもない。しかしきみは、この一瞬を大切にしなければならない。それは、努力するに値するものだから。(抜粋)
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