エルンスト・H・ゴンブリッチ 『若い読者のための世界史』
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
二二 キリスト教の支配者
第21章は、フランク王国の「カルル大帝」についてであった。引き続き第22章は、カルル大帝後のフランク王国と、ハインリッヒ四世とローマ教皇の争い、そしていわゆる「カノッサの屈辱」についてである。
八〇〇年ごろ、中国の帝国は健全に守られていたため、騎馬民族は東よりも西に向かっていった。彼らマジャール人は今日のハンガリーとオーストリアを占領した。そのためそれぞれ独立を主張していた部族公国はひとりの王を指導者にしなければならなかった。そして、九一九年にザクセン公ハインリッヒをゲルマン人全体の王として選出する。彼の息子のオットー一世(大帝)は九四五年の戦いで勝利し、マジャール人をハンガリーに封じ込めることに成功する。
オットー大帝は、マジャール人から奪った土地を自分の土地とせず、それをひとりの領主に貸し与えた。それは当時であっては普通のことで、そのころの貴族たちは王が貸し与えた土地に城を築き、その地を領主として支配した。その土地に住む農民は「農奴」と呼ばれ、その土地の一部に属するもので完全な自由人ではなかった。
本来、王から貸し与えられた土地-封土は、領主たちの土地となり、彼らは戦争の時に駆けつける以外は何も王に負うことはなかった。
そのころドイツ全体は、王から個々の貴族へ貸し与えられた土地からなっていた。そしてフランスやイングランドにおいても事情は同様であり、フランスでは、九八七年にユーゴ・カペーが王になり、イングランドでは一〇一六年にデンマーク人のカヌーテに占領され、彼は有力な領主たちに封土をおさめさせた。
しだいにドイツの歴代の王の権勢は高まり、オットー大帝はイタリアを占領しそれを封土とした。九六二年にローマ教皇は、かつてカルル大帝の頭に冠を載せた(ココ参照)のと同じくオットー大帝に冠をさずけた。このようにして、ふたたびドイツの歴代の王はローマ帝国の皇帝となり、キリスト教の保護者となった。
その後、南はイタリアから、北は北海、西はライン川から東はエルベ川をはるかに超えてスラヴ地方までドイツ王の土地となった。そしてそれらの土地は貴族だけでなく司祭、司教、大司教にも貸し与えられる。これは教皇にとって都合が良いことで、ドイツ皇帝との関係はひじょうにうまくいっていた。
しかし、やがて事情は変わった。教皇は、マインツ、トリエル、ケルン、パッサウの司教が、皇帝の都合だけで皇帝の司祭なかからえらばれることがゆるせなくなった。「彼らは教会に属する聖職者であり、その職は、教会の最高権力者である自分がきめるべきである」というのが、教皇の主張であった。(抜粋)
一〇七三年ローマでグレゴリウス七世が教皇の地位についた。そして、同じころにハインリッヒ四世がドイツ皇帝となった。両者の間に争いが起きたとき世界はまさに騒然となり、人々はハインリッヒ四世につくものと、グレゴリウス七世につくもに二分された。
教皇グレゴリウスは、王ハインリッヒを教会から締め出すために王を破門した。王ハインリッヒはドイツの領主たちが敵に回ることを怖れていた。そのため彼は、教皇に会い、破門を取り下げてもらうために軍隊を連れずにひとりでイタリアに向かった。王と教皇が仲直りすることを望まない領主が街道を封鎖したため王は、凍てつく冬のさなかに遠回りをしてする必要があった。教皇はそのころ、王の敵たちと話し合うためにドイツに向かう途中だったが、ハインリッヒが来る知らせを聞いて、北イタリアのカノッサ上に逃げ込んだ。
彼はハインリッヒが軍隊とともにあらわれると思ったのだ。しかし、ハインリッヒが破門からとかれるために、ひとりでやってきたことを知ると、彼はおどろき、そしてよろこんだ。当時のいくつかの記録は、王はそのとき罪のゆるしを乞う者の着物、すなわち目の粗い修道服を身につけてあらわれたという。そして教皇は、最後に王をあわれみ破門を取り消すまでの三日間、ひどい冬の寒さのなか、城の前庭の雪のなかを裸足で立ったまま待たせたという。同時代のあるひとたちは、王は教皇の前で慈悲を乞うてすすり泣き、それに同情した教皇はけっきょく彼をゆるしたと書いている。(抜粋)
これが「カノッサへの道行き」である。
普通「カノッサの屈辱」と呼ぶような気がするけども、この本では「カノッサの道行き」となっている(つくジー)
しかし、王はこの旅で二つの利益を得ようとしたという。一つは破門からとかれること、もう一つは教皇の前に姿を現すことで、教皇と敵の同盟を妨害することであった。
これは、後にほんとうの皇帝となった王ハインリッヒの死や教皇グレゴリウスの死でもって終わらなかった。ハインリッヒはグレゴリウスを退位させることに成功したが、司教は教会により選ばれることになり、皇帝ではなく、教皇がキリスト教世界の指導者になった。
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