「幹部教育の偏向」
藤原彰『餓死した英霊たち』より

Reading Journal 2nd

『餓死した英霊たち』 藤原彰 著
 [Reading Journal 2nd:読書日誌]

第三章 日本軍隊の特質 – 4 幹部教育の偏向

本節では、日本陸軍の幹部教育の仕組みについて概説した後に、著者が特に問題があるととらえている「陸軍幼年学校」についてその偏向や弊害を解説している。


日本陸軍の幹部教育は、一元的に陸軍幼年学校‐陸軍士官学校‐陸軍大学校により行われた。この幹部養成機関では一貫して精神教育が極めて重視される

出世よりも名誉の死を、天皇のために死ぬことこそ軍人の本分と心得よと徹底的に教え込まれた。(抜粋)

陸軍の幹部教育は、このように偏向していたが、その中で最も偏向し弊害が大きかったのは、幼年学校であると著者は指摘している。そして、以降は幼年学校の問題に焦点を当てて書き進めている。

陸軍幼年学校は、「選ばれた将校の子弟」及び「富者の子弟」を少年時代から特別の軍人精神養成を行う学校とされていた。そして、将校の約三分の一が幼年学校出身であり、特に大戦期は陸軍幼年学校出身のエリートが、陸軍の中核となっていた。
士官学校では、幼年学校出身者が中学校出身者よりもほとんどの場合成績で優位に立ち、士官学校の成績上位者は幼年学校出身者が多くなった。そして、幼年学校出身者は将校に任官した後も、特権的な存在となり強固な団結を保つ。さらにその多くが陸軍大学校への入試も幼年学校出身者が有利であり、中学校出身者よりもはるかに陸軍大学校へ進む率が高かった。
また、陸軍の要職の中で、最も重要な意味を持つ部署である参謀本部一部第二課(作戦課)は、幼年学校出身で陸軍大学校の優等生が多く占めていて、彼らが実質的に参謀本部を動かしていた

ここで、松下芳男の『明治軍制史論・下巻』の「陸軍幼年学校の功罪」という節に書かれている四点の弊害が引用されている。

それをさらにまとめると次のようになる。

  • 1.少年期から特殊な軍事教育を受ける結果、その思想は偏狭になり、正常な感情を欠き、軍国主義的・封建主義的・武断的に傾く。
  • 2.幼年学校の教育が軍人至上主義であること、さらに三年・五年と共同の宿舎生活をするために自尊心と同類意識が強く、排他的になること。これにより中学校出身者との間に対立、軋轢が生まれる。
  • 3.思慮が足らず・処世術も定まらない初年時代に特殊は専門学校に入るため、将校になったのちに、その職業が正確と合致しない者は、国軍としては不適当な将校、個人としては不幸な人間になる。
  • 4.幼年学校出身者は、独仏露の何れかの語学を学ぶ。そのため幼年学校出身者の外国駐在武官としての任地も独仏露となり、幼年学校出身者は、比較的に独仏露の事情に詳しい。これに対して中学校出身者は、英語を学ぶため英米系の諸国の事情に詳しい。しかし陸軍の要職は幼年学校出身者で占められるため、陸軍の中枢部は独仏露の事情に精通するが、英米の事情をよく知らない。そのため、独仏露を重視し、英米を軽視する傾向があった。

ここで、著者は、加登川幸太郎『陸軍の反省(上)』や山中峯太郎『陸軍の反逆児』などからの引用により、この幼年学校の弊害を説明した後、次のように言っている。

陸軍のエリートたちの「唯我独尊、無軌道ぶり、戦場での硬直した考え方などの原動力」が、幼年学校いらい養われた「攻撃精神即ち必勝の信念」にあるという山中、加登川の結論もあたっているといえよう。(抜粋)

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