『李陵 山月記』 中島 敦 著、文藝春秋(文春文庫・現代日本文学館)、2013年
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
「光と風と夢」「山月記」
中島敦の『李陵 山月記』を手に入れました。これもこの前読んだ谷崎 潤一郎の『刺青 痴人の愛 麒麟 春琴抄』と同じく文春文庫の現代日本文学館シリーズを選びました。
『刺青 痴人の愛 麒麟 春琴抄』のところに書きましたが、井波律子が『論語入門』の中で、論語の南子の条にまつわり、谷崎潤一郎の『麒麟』と中島敦の『弟子』を上げていた(ココ参照)ので、読んでみようということです。
『麒麟』を読んだので、今度は『弟子』の番ですね。
本書には、中村敦の『光と風と夢』『山月記』『弟子』『李陵』『悟浄出世』『悟浄歎異 –- 沙門悟浄の手記』が収録されています。それでは順番に読み始めましょう。
(ここでお断りですが、『李陵 山月記』は、幾つもの話が入っているため、二回に分けてまとめます。)
『光と風と夢』
『光と風と夢』は、サモアで客死したロバート・ルイス・スティーヴンソンを題材としている。このスティーヴンソンには、有名な『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』などの作品がある。また『光と風と夢』は昭和十七年上半期の芥川賞候補作品のひとつであり、受賞は逃したが、新人作家中島敦の存在が文壇や一般読者に広まったきっかけになった。
内容は、スティーヴンソンがサモアで亡くなるまでの日常やその作品の話、さらに彼が心を痛めたサモアの権力闘争と西洋人の支配などである。
註解の最初に篠田一士氏による簡潔な批評がある。そのなかで篠田は、当時から、筋立てが冗漫、散漫、表現が安易、粗雑であるという批評があり、今日でもそれはそうであるとしている。しかし、この作品では中島の特異な才能がのびのびと発揮されているところに面白さがあるとしている。さらに、この作品と並行して書かれた「山月記」などと比べ、『光と風と夢』が遠心的な試みであり、『山月記』などは求心的な方向の試みであるとしている。そして、
この二作、つまり「光と風と夢」と「山月記」、あるいは「山月記」を含む「古譚」六篇は両者一体となって中島敦の文学をようやく定着させ、その世界をはじめて確乎たるものとしったのである。(抜粋)
と評している。
『山月記』
いよいよ中島敦の代表作で有名な『山月記』である。誰もが一度は読んだことがあるのではないかと思う。そう、虎になっちゃう話ですね。あらためて読んでみると短い。文庫本で10ページであった。
少し話がそれるが、この本は、鹿毛雅治の『モチベーションの心理学』にも取り上げられている。自尊心のところで『山月記』を取り上げているのだが、よほど思い入れがあるようで、冒頭で『山月記』のあらすじを長文で紹介している。そして次のように言っている。
李徴の生きざまは、まさに自尊の要求(第2章3節)に基づくモチベーションを背景としている。この短い小説にわれわれが感銘を覚える理由のひとつは、自分の心に潜んでいる李徴を感じ取るからではなかろうか。(抜粋)
(ココを参照)
そして、さらに話がそれるけど、この本は、英語版もあって、NHKのEnjoy Simple English Readers “The Pillow Book”and Other Stories”に収録されています。
関連図書:
谷崎 潤一郎 (著)『刺青 痴人の愛 麒麟 春琴抄』、文藝春秋(文春文庫・現代日本文学館)、2021年
井波 律子(著)『論語入門』、岩波書店(岩波新書)、2012年
ロバート・L・スティーヴンソン(著)『宝島』、新潮社(新潮文庫)、2016年
ロバート・L・スティーヴンソン(著)『ジキルとハイド』、新潮社(新潮文庫)、2015年
鹿毛雅治 (著)『モチベーションの心理学 : 「やる気」と「意欲」のメカニズム』、中央公論新社(中公新書) 2022年
“The Pillow Book and Other Stories“、NHK出版(NHK CD BOOK Enjoy Simple English Readers)、2020年
目次
光と風と夢
山月記
弟子
李陵
悟浄出世
悟浄歎異 —- 沙悟浄の手記 —-
中島敦伝 篠田一士
年譜 小田切進


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