『それでも日本人は「戦争」を選んだ』加藤 陽子著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
3章 第一次世界大戦 参加者の横顔と日本が負った傷(前半)
この節では、第一次世界大戦後に行われたパリ講和会議に出席したウォルター・リップマンや若き日の吉田茂の経歴などを紹介し、最も重要な参加者の一人であるジョン・メナード・ケインズの話に移る。
『雇用,利子および貨幣の一般理論』で知られるケインズは、イギリスの大蔵省の代表として講和会議に出席した。しかし、連合国側とくにアメリカのドイツへの政策のひどさに憤慨し、講和条約の調印をまたずに帰国してしまう。
この時、戦勝国側がドイツに対してどうしたら効率よく賠償金を払ってもらえるかと言うことを議論した。アメリカに膨大な戦費を借金しているフランスやイギリスは、その賠償金から借金を返済しなければならなかった。ドイツから賠償金を得るには、ドイツが復興しなければならない。
この点でケインズは、ドイツから取り立てるべき賠償金の額をできるだけ少なくするとともに、アメリカに対しては、英仏が負っている戦債の支払い条件を緩和するように求めたのです。(抜粋)
しかし、アメリカは、これに背を向け戦債返済をパリ講和会議で主張する。
ケインズは、帰国後に『講和の経済的帰結』という本を書き、講和会議の不公平さを世に訴えた。
この本のなかでケインズはウィルソン大統領の様子をかなり悪意を持って描いている。そして、対照的に英国首相だったロイド=ジョージを高く評価した。
こういう人 [ウィルソン大統領を指す] が、直かに身のまわりにいる人間にはだれに対しても誤りのない、ほとんど霊媒に近い、ロイド=ジョージ氏の敏感さに対抗して、どうして有利な機会をつかめようか。イギリスの首相が、普通の人にはないような第六感か第七感を備えつつ、一座の人たちを注視し、性格と動機と潜在意識下の衝動を判断し、それぞれの人が何を考えているか、さらに次に何を言おうとしているかまでも看破し、神通力のような本能をもって、彼の直かの聞き手の見栄や弱点や利己心までも最もよく合うような議論や訴えをあれこれ混ぜ合わせている有様を見ていると、哀れな大統領はいつも一座の中で目隠し鬼の役を演じつつあることが痛感された。(抜粋)
この後、山東半島の権益をめぐる議論を例にしてロイド=ジョージがどのような働きをしたかを示している。
関連書:ケインズ(著)『講和の経済的帰結』ペリカン社1972年
:ケインズ(著)『雇用,利子および貨幣の一般理論』(上)、(下)岩波書店(岩波文庫)2008年
コメント