『忙しい人のための美術館の歩き方』 ちいさな美術館の学芸員 著
[Reading Journal 2nd:読書日誌]
第3章 美術館の新たな取り組み 2 美術館のデジタルシフト
今日のところは、「美術館のデジタルシフト」である。前回は、美術館のSNSの利用の問題が扱われたが、ここでは、「オンライン鑑賞」と「没入型の展覧会」の問題が考察されている。著者は、まだ発展途上としているがどちらに対しても否定的な見方をしている。それでは読み始めよう。
ここ数年で目立ってきた美術館の新たな取り組みとして、様々な面でのデジタル化が挙げられます。(抜粋)
オンライン鑑賞と美術館での鑑賞の違い
日本の美術館では、近年オンラインでコンテンツを配信するためのプラットフォームの整備が進んだ。海外の美術館ではさらにその上を行っていて、Google Arts & Cultureを筆頭に、主要な美術館が名画、名品を惜しげもなくオンラインで公開している。
世界の美術にいつでもアクセスできる状況はとてもすごいことであるが、著者はこれに疑問を呈している。絵を見ることは、絵と対峙することであって、印刷物やパソコン、スマホで見るのと展示室で見るのとではやはり違うのである。
この違いについて、著者は、以前は実際に展覧会に足を運ぶことに価値があると考えていたが、最近は少し考えが進んだと言っている。
展覧会で絵を見ることは、単純にコンテンツを消費することではなく、展覧会に行くまでの過程、会場での鑑賞、さらには帰り道に寄ったカフェなどを体験することである。
美術作品を鑑賞することと、こうした行動は切り離せないものであり、それらが全部組み合わさって一つの鑑賞体験となるからこそ、心に刻まれるのです。美術鑑賞は、ただコンテンツとしての作品を消化することでは決してありません。(抜粋)
このように考えると、オンラインで提供される情報では、どんなに技術が進んだとしても実際の美術鑑賞における感動体験は得られることはない。美術鑑賞という体験は、デジタル技術の本質である効率化とは、真逆のものであるからです。
これからもオンラインで鑑賞できるコンテンツは充実すると考えられるが、デジタル化の過程で漏れ落ちるものもあることを忘れてはならない。
没入型展覧会とその限界
デジタル型の展覧会として、没入型(イマーシブ)展覧会がある。ここで「イマーシブ(immersive)」は、浸るという意味であり、知名度の高い作品を素材にした映像を壁や床に投射し、さらに音響はBGMをつけることでその作品の中に取り込んだような感覚を与える展覧会である。
しかし、著者は、この没入型展覧会について、今の段階では正直物足らないと言っている。名画を拡大縮小し、変形し、アニメーションを付けては、元の作品の世界観が失われてしまうからである。また、撮影された映像も粗いなどまだ過渡期である。そして、もう一つ「ここまで何から何までわかりやすく演出されないと、作品の魅力が伝わらないのだろう」かと疑問も持っている。

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